まにこ

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12/29/2024, 10:21:40 PM

炬燵の上、カゴの中に山盛りに積まれていたみかんは殆ど落っこちてしまった。
それもそのはず、ガタガタと揺れる炬燵のせいで。
床の上、ころりと転がるみかんに思わず手を伸ばそうとするも、後ろからその手を柔らかく絡め取られる。
「これ、こちらに集中せよ」
耳元の甘い囁きが却って今は苦しい。
嗚呼目の前に転がるみかん、後で回収するしか無さそうだ。

12/28/2024, 11:52:54 PM

「今日こそ貴様を倒す!」
いつもの如く果たし状片手に現れた男を見て、やれやれと肩を落とした。
「実は明日から冬休みでね、もうすぐ家に帰らなきゃならないんだ」
「そ、そうなのか」
あからさまに落胆した様子の男にそっと耳打ちする。
「しばらくは会えないからこれで我慢してね」
ちゅ、と頬に触れるだけの接吻を落とす。その瞬間、火がついたように赤くなる男。果たし状をポトリ、落としてしまった。
「今度は普通に会いに来てくれると嬉しいな」
ニコリと微笑み、くるりと背を向けた。後ろで何やら喚いているようだが、恐らく気にしなくても良さそうだ。

12/27/2024, 11:55:55 PM

ハッと目が覚める。
時計を見たら針が思いきり約束の時間を超えていた。
慌てて傍らにあるスマホを確認するとたくさんの着信履歴が残っている。
その履歴の着信相手に掛け直すも相手は出てくれない。
布団から飛び起き、顔を洗いながら再度電話を掛けるもやはり相手は出てくれなかった。
朝食をすっ飛ばし適当に身支度を整えて家を出る。待ち合わせの場所に全速力で向かう。
冷たい風が肺を冷やす。悴む手を温める手袋なぞ持ち出す余裕は無かった。

12/27/2024, 12:36:54 AM

たとえば盆の上に零れた水ですら、長い時間を掛けて空気中に溶けて消えていくのだ。
今あるものがこれからもあり続けるとは限らない。
君が言ってくれた「好き」という言葉ですら、次の瞬間には刻一刻と変わりゆくというのに。
それに縋り続けることの苦しさと恐ろしさを、私は嫌という程知っている。
だったら最初から応じなければ良い。
「ありがとう」
それだけ言って去ろうとする私の手首を君は確りと掴む。
「信じて……頂けませんか?」
曖昧に微笑むだけの私をどうか許してほしい。

12/26/2024, 12:30:27 AM

有給というものを思い切って使ったのがこれが初めてかもしれない。
これまでは自分がのし上がることしか考えていなかった人生だったから、誰かのために生きる喜びを教えてくれたのは正しくこの二人だ。
これを運命と呼ぶのならば、何と素晴らしく甘美な響きなのだろう。
季節のイベント事なぞ全く気にしていなかったモノクロの毎日に色が付けられていく。
それはあまりにも刺激的で、それでいてとても心地が良い。
「これ、何を考えておる」
「こちらに集中してください」
はしたない声を聞かせたくなくて口を覆い隠そうとした手を優しく絡めとられる。
噛み締めようとした唇にそっと指が差し込まれれば流石に降参するしかない。甘い吐息が漏れる。
「クリスマスは恋人達が過ごす時間だと聞きました」
「ならばお主はワシらと居るのが一番良い」
そんな理屈を捏ねられて半ば無理矢理取らされた休みは全て、文字通り恋人達と過ごすこととなった。
布団の上、跳ねる身体を余すことなく愛されていく。
三人のクリスマスはまだ、始まったばかりだ。

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