思えば私の人生は謝罪の連続だった。
なるべくひっそりと息を殺して生きているのだけれども、何かと迷惑をかけてしまっていたようで。
そこに佇んでいるだけで嫌がられていた。
ある種のいじめのようなものだった気もする。
叫ばれ罵られ、ついにこの日が来た。
ここに入ればもう二度と外の空気を胸いっぱいに吸い込むことは出来無いと先祖代々言い伝えられてきた。
でも、案外それはそれで良かったのかもしれない。
短かった私の人生、最後は憧れのマイホームでその時を待とう。
ありがとう、ごめんね。
私は黒い羽を羽ばたかせて、紙でできた我が家へと入室した。
あたしはいつも端っこに追いやられているの
何もそうしたくてやってるわけじゃない
でもそうしないと生きていけないから
うまく隠れないとあたしの仲間も皆消されちゃった
いやだわ、今日もまたあの耳をつんざく音と地響きがする
嗚呼目の前で仲間が吸い込まれていく
震えながら隠れているこの時間が1番嫌い
あたし達が一体何をしたって言うの
あ、いやだ、身体が吸い込まr
「愛してる」
言葉は空気に触れた途端に実体を持たずに消えていく。
だからいくらでも吐くことができる。
自分を守る盾としてこれほど有用なものは無い。
心とは裏腹、所詮口先だけの約束事なぞ無いに等しい。
目の前の人物がホッとしたように口元を綻ばせても、こちらの腹の中までは読ませない。
何だかアルコールを浴びるほど飲みたい。
そう思っていたのに気付けば床に散りばめられた色とりどりの宝石たち。
大理石の床には私が描いた模様が広がる。
そこに眠る私はさしずめお姫様といったところかしら。
姫はやたらと煌びやかな服を着ている。
どこにも売っていない私が作った私だけのドレス。
宝石を一つ飲み込んでみる。
世界が一気に輝いて、灰色からショッキングカラーに彩られてゆく。
まだまだ私は世界を堪能する。
嗚呼今夜もまた眠れない。
三人で卓袱台を囲んでご飯をつつく。
その日あったことを面白おかしく話し、それを聞いてもらって笑ったり相槌を打ったり。
はたまた人生の不条理について熱く語ってみたりなんかして。
一緒になって怒ってくれたり泣いてくれたり、そういうので良いのだ。
ツキン、頭が急に痛む。温かい団欒の光景にヒビが入る。
嫌だ、やめてくれ。俺からささやかな幸せを取らないでくれ。
「おはよう」「目が覚めましたか」
痛む頭を押さえることは叶わない。後ろ手に縛られ、足首には鎖。
光を失った眼差しの二人が俺を見下ろしている。
もう一度だけでいい、あの日に戻してほしい。
今度は選択肢を間違えないから、そうすればきっと夢の続きを見られるから。
零れそうになる涙を堪えるようにして俺は再び目を固く閉じた。