「見て、どんな顔してる?」
そんなの見たくない。蕩けきった己の顔なぞ見たいわけあるものか。
それなのに後ろの男は意地悪く耳元で囁いてくる。
欲と熱と快楽に塗れた己の顔を鏡に向けさせるのだ。
「大丈夫、とても綺麗だから」
綺麗なわけがない。そんな形で自分と向き合いたくなんてない。
嗚呼こんなのだったら姿見なんて買うんじゃなかった。
鼻息荒くお強請りしてきた自分の恋人を今、恨む。果たしてこれがやりたかったのか、こいつは。
「僕の可愛い恋人。こんな可愛い姿を僕だけ知っているのも良いんですが、あなたとも共有したくなって」
いらぬ世話だと内心思う。でも恋人という甘い言葉の響きに心がとくんと弾んでしまったのもまた事実。
鏡の中の自分はだらしなく、それでいて幸せを確りと手に入れていた。
考える。考えて考えて考えれば考えるほど目は冴えてどうしようもなくなる。
今日こそあなたが夢に現れてくれますように。
願いは呪いとなって私を蝕む。
嗚呼、今宵もまた眠れない。
どこまで行っても平行線だ。
お互いに折り合いをつけるということをしない。
できないのである。矜恃がそれを許さない。
「Aは攻め!」「Aは受けやもん!」
嗚呼悲しきかな、この手の話題は永遠に尽きることは無い。
そしてこれからもひっそりと受け継がれていく文化のひとつに違いない。
どこか遠くで汽笛が鳴る。
各々に夢や希望、不安やしんどさを抱えて電車は走ってゆくのだ。
その先に我々の理想郷があると信じて。
……嗚呼残念、今日もまた途中下車する者が現れたらしい。
全員で同じ方面を目指せばその先にあるのはきっと理想郷。
それを邪魔する者は何者でも許されない。
鉄槌を下すべく、私は拳銃を片手に立ち上がった。
高々三十数年生きてきただけでも懐かしいと思えることは両手に余るくらいにはある。
A子は学生時代の友人と久しぶりの再会を果たしていた。
あの先生面白かったよね とか 今考えると何かおかしかった校則のことと とか話は尽きない。
良い意味でもう過去はやりきったなあとA子は思う。
これから来たる未来に向けて、その礎となる過去をしっかり踏み締めて今を生きるのだ。
中には朽ち果てる過去もあるがそれはそれで構わない。
今とこれから先の未来のために全てにおいて無駄は無い。