「見て、どんな顔してる?」
そんなの見たくない。蕩けきった己の顔なぞ見たいわけあるものか。
それなのに後ろの男は意地悪く耳元で囁いてくる。
欲と熱と快楽に塗れた己の顔を鏡に向けさせるのだ。
「大丈夫、とても綺麗だから」
綺麗なわけがない。そんな形で自分と向き合いたくなんてない。
嗚呼こんなのだったら姿見なんて買うんじゃなかった。
鼻息荒くお強請りしてきた自分の恋人を今、恨む。果たしてこれがやりたかったのか、こいつは。
「僕の可愛い恋人。こんな可愛い姿を僕だけ知っているのも良いんですが、あなたとも共有したくなって」
いらぬ世話だと内心思う。でも恋人という甘い言葉の響きに心がとくんと弾んでしまったのもまた事実。
鏡の中の自分はだらしなく、それでいて幸せを確りと手に入れていた。
11/3/2024, 10:33:32 PM