空が白む。
夜露をたっぷりつけた草花が生き生きと朝を喜ぶ。
鳥たちの囀り、身が引き締まるような凛とした空気。
そのどれもが私を嬉しくさせる。
友よ、今日も私は生きているぞ。
きっとこの空の下で君も同じ朝を迎えていることだろう。
それだけが私を癒し、救ってくれる唯一の事実なのだ。
待て待て、まだお前はその時じゃあない。
君はついさっきここにやってきたばかりじゃないか。
月1度の楽しみがこんなにあっさりと終わりを迎えるなんて。
でもお前がいなくなることで新しい仲間が手に入るのも否めない。
しばらくガラスケースと睨めっこ。そろばんを頭の中でリズミカルに弾く。果たしてA男が導き出した答えとは。
「……これ、ください」
さようなら、諭吉。
「毎度!」
確かに懐は寒くなった。できれば行かないでほしかった。
でもその分ほかほかと温まる自分の心。
袋に詰めてもらった、推しのフィギュア。
オタ活とは何かと引き換えに何かを失い、そして得るのだ。
やはりお迎えして正解だった。
会うは別れの始まり、A男はスキップしながら帰路についた。
その日は雲一つない澄み渡るような青空だった。
逃げられない、何となくB子は心の隅でそう思う。
どこまでも続く青い空はこれからも私を追い続けるのだ。
A男が必死で掘ってくれた穴もその中に葬ったあの人もシャベルもすべては夢であれと祈る。
でもこうでもしないとあの人からの呪縛から解き放たれる日は永遠に来なかった。
「行こう」
「ええ」
短く交わされる会話。余計なことはもういらない。
鬱蒼と茂る緑とそこから零れる光が自分達を祝福してくれる。
おめでとう、君たちは自由だ。そして永遠なる呪いを。
今年の夏は随分働いたなあと我ながら思う。
「暑いです」「寒いです」
大きな箱から聞こえる声で、人間たちは身の振りを考えているようだ。
擦り切れそうになるほどよく着てもらった。
やおら僕にハンガーを差し入れ、ぴんぴんと皺を伸ばす人間。
「そろそろ片付けなきゃなあ」
そっか、今年はもうこれで仕舞いか。
爽やかな風が僕を揺らす。秋の匂いがした。
次の日に仕事が無いことを何度も確認される。
そらもうそのしつこさったらありゃしない。
後は何の予定も無いことの再確認。
今から始まるこの行為でどれだけ体力を削られるかを痛感させられる。
嗚呼、嫌なんだけど嫌じゃない。
しばらく相棒に構ってやれていなかったことのツケなのだ、これは。
ツケは払わなきゃなあ。聞こえないように独り言ちる。
ゆったりと布団に押し倒される心地良さとほんのり恥ずかしさとを綯い交ぜにしたような、そんな気持ち。
さあ来い、お前の愛を受け取る準備はできている。