その日は雲一つない澄み渡るような青空だった。
逃げられない、何となくB子は心の隅でそう思う。
どこまでも続く青い空はこれからも私を追い続けるのだ。
A男が必死で掘ってくれた穴もその中に葬ったあの人もシャベルもすべては夢であれと祈る。
でもこうでもしないとあの人からの呪縛から解き放たれる日は永遠に来なかった。
「行こう」
「ええ」
短く交わされる会話。余計なことはもういらない。
鬱蒼と茂る緑とそこから零れる光が自分達を祝福してくれる。
おめでとう、君たちは自由だ。そして永遠なる呪いを。
今年の夏は随分働いたなあと我ながら思う。
「暑いです」「寒いです」
大きな箱から聞こえる声で、人間たちは身の振りを考えているようだ。
擦り切れそうになるほどよく着てもらった。
やおら僕にハンガーを差し入れ、ぴんぴんと皺を伸ばす人間。
「そろそろ片付けなきゃなあ」
そっか、今年はもうこれで仕舞いか。
爽やかな風が僕を揺らす。秋の匂いがした。
次の日に仕事が無いことを何度も確認される。
そらもうそのしつこさったらありゃしない。
後は何の予定も無いことの再確認。
今から始まるこの行為でどれだけ体力を削られるかを痛感させられる。
嗚呼、嫌なんだけど嫌じゃない。
しばらく相棒に構ってやれていなかったことのツケなのだ、これは。
ツケは払わなきゃなあ。聞こえないように独り言ちる。
ゆったりと布団に押し倒される心地良さとほんのり恥ずかしさとを綯い交ぜにしたような、そんな気持ち。
さあ来い、お前の愛を受け取る準備はできている。
初対面の人とは割かし仲良しな雰囲気を醸すことができる、と自負している。
問題は2回目からだ。
ハイテンションでいくと引かれる、かといってローテーションだと不気味がられる。
あれ、初めて会った時にはどんなノリだったかしら。
思い出せない、何も。
悲しいかな、これが大体私の人付き合いの癖でして。
はじまりはいつも、謎。
順番をなぞる、などということは自分達の関係性においては当てはまらなくても構わないと思っていた。
そう思っていたのは果たして自分だけだったと気付いたのは全て後の祭り。
翌朝枕元に残っていたのは金と、至ってシンプルな詫び状。
そうか、向こうはあくまでもその場限りの関係だと思っていたのか。
そんなことは決して許さぬ。諦めが悪い、自負もある。
譫言のように愛の言葉を紡いでいたのはお前の本音では無かったのか。
少なくともこちらは本気だ。逃すはずもない。
探しものは得意な方だ。
もう二度と大切な存在を失いたくない。
見つけたらどうしようか。両手両足を切り落として自分無しでは生きていけぬ身体にしてやろうか。
否、そんなつまらぬことはしない。
あくまでも五体満足でお前を囲うてやろうな。
逃げ出せるのに逃げ出せないのが良い。どこまでも絶望のどん底に叩き落とす。
少なくともこちらの本気が伝わるまではその身体にしかと愛を刻みこんでやろうな。
ゆらり、立ち上がった男の瞳には歪んだ光が灯っていた。