私の後にはレールがある。
曲がりくねったり傷が付いていたり、中々まっすぐに伸びた道は見つからない。
そして前を見ると先は闇闇闇、歩いてみないとレールがあるのかどうかさえ分からない。
それでも私は進んでいく。
手探りで恐る恐るでも、たとえレールから滑り落ちたとしても。
転んで傷だらけになってでも決して歩みを止めるな。
多分生きていくってこういうこと、なのかもしれない。
カチコチカチコチ時計の音がする。
遠くに聞こえていた子供達の声も今は聞こえない。
確かこういう時って名前があったんだよね。
「天使が通る」って。
僕の一言のせいで天使が通っちゃった。
人は沈黙を過度に恐れる。
たまにはこの天使さんが作ってくれた状況を楽しんでみようか。
返事を待つこの静かな時間が、張り詰めた空気が、今はとても愛おしい。
だって返事は君の真っ赤な顔を見れば火を見るより明らかだから。
天使さん、もう少しだけここにいて。
会うは別れの始まり、そんな言葉をA子はぼんやりと思い出していた。
最初に出会った時は胸がドキドキと高鳴ったのを覚えている。
それはまるで初恋のトキメキのような、それでいてどこか懐かしいような。
それでも先人が遺した言葉はどうしてこんなにも世の理にかなっているのだろうか。
「嗚呼、」
あなたとはこれから何度別れるのだろう、こんな別れが来るのならばいっそ初めから出会わなくていいのに。
ゴキジェットと書かれたスプレー缶を手に、A子はいよいよ対峙する。
後生ですから見逃してください、何となくそんな声が聞こえてくる。
ならぬ、お前だけはタダで帰すわけにはいかないのだ。
会うは別れの始まり、それならば最初から出会いたくない。私の前に二度と姿を見せないでおくれ。
シュー!と勢いよくスプレーの噴き出す音が無音の部屋に響いた。
「天気予報の嘘つき」
今日は雨が降るなんて聞いてないと少女は独り言ちる。
久々に美容室で髪を思い切ってバッサリ切ってもらったばかりだと言うのに。もう自分の嫌なものを押し付けられなくていいという開放感に満ち満ちていた少女は、足取り軽く家に帰る途中だった。
慌ててどこかの家の軒下に駆け込み、ほんの少し雨宿りさせてもらう。
どんよりと重たい雨雲が、ここら一帯の空を覆っている。慌てて鞄を頭に乗せて走るサラリーマン。落ち着いて折り畳み傘を取り出し、ゆったり歩くご婦人。
木の葉を雨粒が優しく弾いている。私があの時流した涙よりもずっと柔らかい雨。世界が雨にぎゅっと閉じ込められているみたいだ。
髪を切ることで負のエネルギーから一刻も早く解き放たれたいと思っていた。今降っている雨にもそんな力があるのかしら、黒く淀んだ気持ちが排水溝へと流れていく。
やがて空からは日射しが射し込み、たちまち雨は止んでしまう。
「よし、帰るか」
少女はどこかスッキリとした面持ちで、再び元気よく歩き出して行った。
もみじ も こうよう も 同じ 紅葉と書くんだよ
意味は似ているようで全く違う
カサカサと風に揺蕩う紅葉と 赤色黄色と鮮やかに彩られる紅葉と
食の恵みに感謝する 美味しい秋
静かな夜を贅沢に味わう 秋の夜長
年々消えゆく 秋
どうかどうか 百年先も 続いていきますように