『幸せとは』
考えてみて、私がいちばん幸せだと思ったのは、
隣であなたが笑った瞬間だった。
自分より、あなたのことを思えている。
それが、私にとってはいちばん幸せだ。
もし許されるのならば、
明日も、隣にいてくれますか。
『新年』
私はその瞬間、1人で部屋にいた。リビングまで行けば家族全員がいた。それは、好きな人と電話をするため。
「あと5分で今年終わっちゃうね」
「んね、ほんと早かった」
「まさかお前とこんなに話す仲になるとはね」
「そうだねえ。初めて席隣になった時は人生の終わりを感じてたよ」
「ええなんか悲しいかも」
「ふふふ、冗談だよ」
なんだかんだ言って私にたくさん話しかけてくれたあなたが大好きだよ。なんて、言えるはずなかった。彼には、彼の好きな人がいる。私はそれが誰か知っている。この恋は、捨てなきゃいけない。幸いなのか、彼はその人にほぼ一目惚れで、全く話せないそうなので、こうやって私の無茶にも笑って応じてくれる。ほんと、馬鹿だな。でも、私って多分見る目ある。彼にも見る目がある。だから今こうなってる。きっとそういうことだ。
「あっ!!」
「おー、あけましておめでとう」
「あけおめー!」
「今年もよろしくね」
「おう!よろしく!!」
新年になって、初めて聞いたのがあなたの声で良かった。もうこれで終わりにするから。だから、許してよ、神様。
その後すぐに電話を切り、布団に入った。少し冷たい。なんだか胸の辺りが苦しかった。それが落ち着いたかと思えば、次は涙が溢れて止まらない。叶わない恋ってこんなにつらいんだと教えてくれたのさえ、あなただ。
あけましておめでとう。
あなたに、あなたの好きな人に、幸せが降り注ぎますように。
『良いお年を』
何日ぶりだろう、家族みんなで食卓を囲むのは。
朝コンビニで買ったパンを学校で頬張った日も、
ちょっと贅沢してもう1品プラスした塾の日も、
もうみんなが寝てる中で母親と夜ご飯を食べた日も、
数え切れないけれど、
きっと、今日は本当に数週間、数ヶ月くらい間が空いた、特別な日。
いつもはご飯中も勉強する行儀悪いやつだけど、
今日だけは、行儀いい子でいます。
なんてね。
年越しの瞬間も家族といたかったけれど、
全てをかけなければいけないので。
ひとり、部屋でお勉強をします。
数ヶ月後には、笑ってやるんだ。
みんな、良いお年を。
春に、溢れるほどの笑顔を見せてください。
『みかん』
こたつの中でぬくぬくとしている中で、甘いみかんを食べる瞬間が好きだ。ああ、俗っぽいなんて言わないで。確かに私は俗っぽい人だけれど、それで得られる幸せは俗っぽくなんてないの。
こたつの上に置いてあるペンを手に取る。キュッと音を立てながら、みかんに顔を描いていく。
「ね、どう?」
隣で寝ていた彼を起こして、彼の顔を描いたみかんを見せた。彼は寝ぼけたままで言う。
「ぶさいく」
「あなたを描いたんだけど」
「じゃあいけめん」
そして、のそのそとこたつから上半身を出して、彼も同じようにペンを手に取った。真剣な顔つき。私はそれを見られるだけでも満足だった。
「これ、おまえ」
「……意外と似てる」
「まあね、───」
お前のことはよく見てるから。
……いけない、暑くなってきた。そうだ、外に出よう。みかんでも買ってこようか。
『冬休み』
そういえば、良いお年をって言うの、忘れてた。
駅のホームで電車を待っているとき、ふと思った。そんな大したことじゃない。明日から冬休みなんて言ったって、どうせ連絡は取り合う。きっと、たぶん。
クリスマスも過ぎて、もう年末だなんて、正直信じられない。まだ年が明けてから数週間しか経っていないように思う。あの日から1年経つのか、としみじみ思ってしまう。いけない、そういうことを考え始めると、二度と戻って来れなくなる。私の思い出は鮮やかすぎる。こんなに冷たい、まるで氷に包まれた一色の世界に、いくつもの極彩色を散らす。そのせいで、夜はいっそう寂しくなる。思い出も幻想なんじゃないかと思ってしまう。存在しない記憶が、思い出として残っているように感じているだけなんじゃないか。そんなの、悲しい。
言うの忘れてた!良いお年をー!
通知が降ってきた。それは、私の好きな人。今年、1番初めに私に「あけましておめでとう」と連絡をくれた人。冬休みで楽しみなことなんて、それくらいだ。あとは、もう、過ぎ行く思い出と、薄れ行く記憶を繋ぎ止めようと必死になるだけで、だから、だから、冬休みなんていらないの。
あなたに毎日会いたいの。