yukopi

Open App
7/13/2024, 1:40:36 AM


私らにも夜はある。
血が騒ぐのだ。それは目につく限りの小動物に対して過敏に反応してしまう。それらは、私らの習性なのだからしょうがあるまい。


日中は寝る。
お腹が空いたら起きるし、また寝る。
たまには大きいのに愛を見せつけてフフンとする。
ほぼほぼそういう感覚で、生きている。


そして平凡な今日も、私らの夜がやってくる。
陽が落ちれば月が見える。あたりまえのことだ。
大きいのは、寝る。
私は大きいのが横になれるくらいの、ふかふかで温いものに包まれて寝ているのを知っている。
あれは実にいい。
日中は私のものだ。大好きな匂いもついているので「サイコウ」である。これは大きいのから教えてもらった、コトバというものだ。大きいのは、よく私に話しかけてくれる。そういう時、私はじっ、と大きいのの目を見つめるのだ。私なりの返し方である。


大きいのが眠りについた頃、私は外に出る。
いつもの習慣だ。
そして大きいのが起きる数時間前に、大きいのの寝ている温もりの中に"ちょっとしたキモチ"とやらを置いて行く。「キモチ」これも大きいのから得たコトバというやつだ。そしてこれも日頃の私なりの返し方である。




大きいのが、音高く何かを言っているのはわかった。
大きいのが音高くする時は、「カンジョウ」と言うものを昂らせているということらしい。これは三軒隣の三毛から聞いた情報である。
世の中に、大きいのは沢山いて1匹の時もあれば、集団で生活しているものもいる。ただ大きさが違うだけで、私らとなんら変わらない。私らは単独であり、集団も伴う。今一緒にいる大きいのは単独だが、集団になった時、同じ行動を伴うのが主流らしい。


確かに大きいのは、キンキンとした音を張り上げてよく私の頭を撫でてくれる。だから三軒隣の三毛から聞いたことは確かであるに違いない。


だから今日も、いや前からずっと大きいのが音高くカンジョウというものを昂らせているのを目にしていた。
そういう時、私らは基本的に何もしない。
じっ、と大きいのの行動を注意深く見ている。

そして、音高く発しながら私の頭を撫でてくれたと思ったら、それを手放した。
そして私はそれをじっ、と見ていた。

大きいのはそれを黒い穴の中に落とす。
私のちょっとしたキモチ…を。生きている時はウネウネと動いていたが、今は幼子も同然。私にかかれば。
穴の中に落ちて見えなくなった。
きっとこうやって私のちょっとしたキモチを集めているのだろう。


じっ、と大きいのを横から見つめる。
大きいのは視線の端から、私に気づいたのであろう。
目を見て、小さく…ヒッ!と音を出した。
私はこの行為を以前からよくやっていた。
そうして少し震える手でいつも通りに私の頭を撫でる。

いつもより今日は特にカンジョウを昂らせている音を聞きながら、私は明日も大きいのが寝る温い中へ、"ちょっとしたキモチ"を入れようと尻尾を高く上げた。



お題:これまでずっと

7/11/2024, 3:19:01 PM

何を思ったか、この無粋な男からまさかの申し出だった。朴訥フェイスで正直、何を考えているかさえわからない。

で、何処の…?と聞いても、なんだか釈然としない答えが数日続いた。その間LINEも殆どなかったし、痺れをきらした俺が「なぁ、行きたいってそっちが言ったんだろ?」と突っ返したら、今度逢おうとしてる機会さえも消えてしまいそうな雰囲気だった。


結局、期待するような返答もないまま、明確な場所も与えられなかった。そしてそのまま、約束の週末を迎える羽目となった。
それでも一応はその誘いを信じて、予め予約しておいたレンタカーに乗り込む。
どこまでも長いラインのような一本の道を、東、東へと向かっていた。


遠く、肉眼からでもわかる。運が良ければイルカが跳ねる姿が見えると有名な海が広がっている。数日続いた天候の悪さが嘘のようだった。
久しぶりの映えた蒼との相性は、こちらの気持ちも同じ色に染まっていく。
けれどふと我に返り、真横にいる存在を意識すると、いつもの無粋な男がちゃっかりと、視界に映り込む。

…安定の、朴訥フェイスで。

俺は虚な目を向ける。
口下手なナビほど、頼りないものはなかった。
結局ここまで来れたのは、ぐーぐる大先生のおかげである。


砂に足をとられながら歩き、ようやく辿り着く。

吐く息の白さ。少し肌寒く感じた。遠くからみる蒼とはだいぶ違った印象を抱いた。

(こんな季節に、此処に来る事があるだなんて。)
陽の光が海面をてろてろと走り、吹き付ける風によって時にうねりを伴う。時に、荒々しい表情に、暫く魅せられていた。
その荒々しさは、夏に魅せるものとまるで真逆の光景だった。

隣の使えないナビがこんな光景を知っていたことが、信じられなかった。
普段何も興味がないような、死んだ魚の目をしているこの男から、久しぶりに届いた、たった1件のLINE。

ーー『春の海を見に行こう』と。





社会人になって世間の荒波を例えるならば、夏なんかより断然、春の海に近い気がする。
大人になってからわかる、本音と建前との狭間、社交辞令とかそういう余計なものが多すぎる現代社会。
素直でありたい反面、嫌でも曲げさせられる現代を生きる。
そうしてまた季節が過ぎ、…迎える頃に、海を探しに行くようになった。自分たちだけの海を。
何度も目にする度、荒くれた海原は、自分達の葛藤でもあるかのように思えた。




人の行き交う雑踏から抜け出して、空っぽの状態で過ごす貴重な時間。

今日も久しぶりに足を運んだ海岸は、幸いにもあまり人の姿はない。足が疲れたので少し海から離れて、道沿いのコンクリートに腰を下ろす。

今日の『ナビ』は珍しくおしゃべりで、普段のアイツらしさはなかった。






***
最近、LINEすらまともに返す時間がない。
電話も殆どだ。それはここ最近、特に…。


ただ会話するのが嫌いなわけでも、気持ちを言葉にする事が苦手だと言うわけでもない。
それは自分の会社で起こっていることで、あいつにはなんの関係もないことだ。会社の内部は殆どがクロだと知った。しかしこの事情を聞かせるのは…本当に、あいつにとって必要なことなのだろうか。


もう少しだけ、、この静寂を。

…隣の男の澄んだ目が、まだ、覚めぬうちは。







お題:1件のLINE

7/11/2024, 1:04:25 AM

目が覚めた時、どうやら私はかなり長い夢を見ていたらしい。側にはもう「悟空」はいなかった。
悟空…あの悟空だ。
そう、あの孫悟空。ドラゴンボールの主人公。

私が眠りにつく以前の記憶。
悟空は言っていた。
『もう少しで地球が滅ぶ。それはオラのせいだから、オメェはオラと離婚して、オメェは逃げろ』
…オラは悪い奴らを倒しに行く。

野沢雅子の声でそう言ったあと、記憶が途切れた。
私が目覚めた時、本当に悟空は側にいなくなっていた。

親に「ねぇ、悟空さんは?」と聞くと、
『大酒飲んでそれからあんたと離婚したよ。…結局のところ、そういう男だったよ。』と言われた。
だけどすぐに私は、違うんだよなぁ…と思った。

眠りにつく以前の記憶では、とても楽しかったし、悲しいどころか色んな思い出を作れて嬉しかった記憶しかない。だけどうちの親達はそれを見ていないから…と、そんな風に悟空のことをそっけなくあしらう親達が少し悲しかったけど、言い返したりはしなかった。

(悟空さ…、行ってしまっただ…。)


でも、私にもまだやるべき事があった。あと少しで地球が滅亡するから、私は私でなんとかしよう!少しでも悟空の役に立とう!と思い、私は電話の前に立つ。
古い電話帳を片手に、私が知る限りの知り合いに片っ端から電話をかけ始めた。

陸海空の自衛隊的な、NASA的な各国の知り合いに連絡し、地球側からも、ミサイルという物理を撃ち込み、
確実に悟空の言っていた『悪い奴ら』を消滅させる
"経度"を私は知っていたのだった。

私は密かにくつくつと口角を歪め嗤った。
私の戦闘力は53万なのですよ。ホラ見てご覧なさい、もうすぐ打ち上がる、綺麗な花火を!


地球滅亡まで、あと数時間。









…という夢を見たんだ。




お題:目が覚めると

7/10/2024, 1:59:50 AM

私は猫と会話する。
今日は仕事場に連れてきてしまった。
いつもなら連れて行かない。それが日常だ。
だが、いつもながらにいつもじゃない事だってある。

課長に訳を説明して、許可を得た。
猫はまだ子猫で、フワフワの毛がチャーミング。
朝起きると同時に左腕に巻き付いて離れなかった。
遅刻するのも嫌だったからそのまま出勤した。
電車の中で写メを撮られそうになったけど、申し訳ないないがせめて苦しくないようにショッピングバッグの中に左腕を入れて、ふわ猫の権利を護ったりした。猫だって勝手に撮られたらそりゃムカつくでしょうが。幸い、ニャーと文句を垂れなくてホッとした。

だが、会社に来てからが本番だった。
電車の中では落ち着かない様子だったが、私が椅子に座って動かないことに落ち着いたのか机の上をウロウロし、「こら、静かにしなさい」というと『にゃー!』とか『ニー!』とか文句を言うようになった。

その度に、
「いい?此処は私の職場なの。いい加減、自覚というものを…」
『ニャー!』
「にゃー、じゃない!ちょっと聞きなさい。」

猫と会話している私たちを側から見ていて、微笑ましい周りの人たちの視線を感じながら私は黙々と今日のタスクをこなしている。
私は出来る女。
周りの人たちもそんなに見てはいられないから、PCと向かい合ってる。けど、顔から笑みが溢れている。
でも私は……、これでも結構必死だった。

『にゃあぁぁぁぁ!!』

突如として唸る可愛い叫び。
なんか不満げなご様子で子猫が言ってくる。
「…寂しんぼか?」ごじょせんのセリフを返す私。
隣で同僚が吹いている。ブフッ

「帰ったら爪切ろうね」私がいうと
『ニャー!』嫌だと言ってきた。
爪切りが嫌いだ。
「怪我するから(今、私がしてるんよ。痛い!)」
『にゃあああ』
「にゃあああじゃない。」
『ンー』
「ダメ」
『ゴロゴロ』
「ゴロゴロしたってダメ」

出来る女である私は仕事中だろうが意識せず猫と会話し、やりとりは途切れることはない。私にとっては日常そのものなのだから。しかし環境に慣れていない同僚たちは、たまらずコーヒーを吹き出していた。
「可愛いがすぎる」「笑いが止まらん」
後で聞いた話、…課長も笑っていたらしい。


お題:私の当たり前