龍那

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4/19/2023, 1:31:19 PM

[もしも未来を見れるなら]

「そう思ったことはありませんか!」
「ない」
「なんでですか! これから押し付、プレゼンしたいボクの発明が台無しになる!」
「押し付けるって言ったな。いらない」
「いいえ、欲しいって言わせてみせます!」
 そう言いながら置かれた、自称「未来が見える機械」はスマホのようだった。画面を指でつついてみる。ぱっと表示された画面には、テキストの入力フォームや数値の設定欄がある。
「パラメーター調整すれば3分後から1週間後までなんでも見放題。音声で指定もできますよ」
「便利だな」
「でしょう!」
「…….よし、じゃあひとつ使ってみてから決めよう」
「いいですよ。これの結果は絶対ですから」
「たいした自信だな」
「ボクの発明品を甘く見ないでください。さあどうぞ」
 差し出された機械を受け取る。音声入力にして、用意した質問を入力する。
「5分後に俺がこれを欲しがってるかどうか見せてくれ」

 その機械が返してきた5分後の俺はこう言っていた。
「なるほど、性能は確かだな。うん、いらない」
 

4/18/2023, 11:34:20 AM

[無色の世界]

 目が覚めると、世界に色が無かった。
 青く晴れ渡った空も。色とりどりの花畑も。
 美味しそうな焼き色のベーコンも。
 それからカップの中のーー。

「これ、何色?」
「#946c45」
「なるほどこっちが僕のカフェオレ」
「うん。しかし、カラーコード認識機能壊れるとか不便だね」
「ホントだよ。コード読めないだけで世界がこんなに無色とは思わなかった」

4/17/2023, 1:10:28 PM

[桜散る]

 桜が散った。それはもう見事な桜吹雪として。
 一際強く吹いたその風は、私の涙も散らして吹き過ぎていった。

「……はあ。失恋ってしんどい」
「保原さん、怪異に同調しすぎるのは危ないよ」
 お向かいに立ってた東雲君が、さくっと私に釘を刺す。
「そうかもだけどさ。せつないんだもん。仕方ない」
 私は目に残ってた涙を中指で擦りながら、失恋の余韻を吐き出す。
「東雲君は何も思わなかったの? この木がずっと、桜を咲かせ続けた想いを受け取ってさ」
「……思わなかったよ。だから“彼”は謝ったんだ」
「そっか。そうだね」
 それでもしんみりしていると、東雲君は呆れたように息を吐いて背中を向けた。
「ほら。田原堂の餅グラタン食べるんでしょ。早く行かないと閉まるよ」
「あ。うん」
 慌てて彼を追いかける。
 追いつく直前、東雲君は私をちらっと振り返った。
「もし保原さんに好きな人できたら手伝ってあげる」
「え? なんで?」
「“彼”の気持ちは分かんなかったけど、保原さんが失恋する姿は見たくないからね」
 だから安心していいよと言った東雲君の歩幅は、何故かさっきより少し大きかった。

4/16/2023, 11:56:23 AM

[ここではない、どこかで]

 星がひとつ消えた。
 寿命でも。隕石の衝突でもない。
 ただ、噛み砕かれた飴玉のように、大小様々な欠片になった。
 理由はわからず、天文学界は大騒ぎになった。

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 スタークラッシュキャンディ回収のお知らせ
 弊社販売のスタークラッシュキャンディにつきまして、噛み砕くと無作為で選ばれた星を砕いてしまう不具合が発生しており、回収対象となります。
詳細は店員までお問い合わせください。ご迷惑をおかけし、深くお詫び申し上げます。

4/15/2023, 10:14:41 AM

[届かぬ想い]

 僕は君のことが好きだった。
 桜吹雪の中でくすくすと笑う声も。
 波打ち際でうっかり濡らした素足も。
 紅葉を拾ってクルクル回す指先も。
 冷たい北風にぎゅっと寄せられる細い肩も。
 君が口笛のように呼ぶ、僕の名前も。

 どんなに言葉を尽くしても。
 どれだけ想いを並べても。
 違う世界に来てしまったら、どう頑張っても届かないのだ。

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