「っうわ、さむ。」
玄関の扉を開けると、北風の洗礼が俺を襲いかかる。正直、耳が凍りそうな程寒いが、我慢して一歩を踏み出す。
「よっ。」
歩道に出たすぐそこに、友達がいた。
「寒いよな~。こんな日には、コーヒーが欲しくなるよな。まあ俺飲めないけど。」
「あはは、なんだよそれ。」
友人が笑っていると、なんだか俺も笑えてきて、二人して道端で笑い転げた。
案外、人と話して、笑ったりすると、身体って暖まるものなんだなあ。なんて漠然と思う。
呼吸をすると白くなる息は、冬の寒さを体現しているようだった。
題:寒さが身に染みて
「将来の夢って何歳の時点で叶ってるものなんかな?」
高校生にもなって、将来の夢を書いているのに、大人になるのは間近なのが、おかしい気がした。
「大体の人は、成人した時の事を思い浮かべると思うけどね。」
そうか。そういうものか。何となく納得した様な、それでいて疑問が残る様な変な気分だ。
「じゃあ、俺の将来の夢、二十歳になる事にしよ!」
「うわ、こいつ揚げ足取りしやがった。」
まあ、そんな作文で先生が許してくれる訳無いと思うけど、気持ち的には満足。
題:20歳
「君の願いを叶えてあげましょう。」
誰もが眠っている様な深夜に、ソイツは現れた。
魔法使いが着ている様な、繊細な刺繍が施されたローブを身に纏い、肩の辺りからは、何故か天使の様な翼があった。
二つの要素が入り交じったソイツは、不確かな存在だと確信させるには充分な程だった。まあ、深夜に現れたからでもあると思うが。
「願いって、何を叶えてくれるの。」
「億万長者になりたい、なんてものから、家政婦になって欲しいなんてものまで、あなたの考え得るものは全て叶えます。」
何故、なんて言えるほど俺は冷静じゃなかった。俺の横に転がるものに目が行って、つい。
「俺が殺してしまった、恋人を、蘇らせてくれ…」
と口走ってしまった。
そう言うや否か、ソイツはにんまりと口を上げて、「君はそう言うと思ってた。」と言った。
その仕草に懐かしさを感じて。慌ててそのローブを掴んだ。
「っ」
やっぱりだった。脱げたローブから覗いたその顔は、確かに俺の恋人だった。俺が殺してしまった恋人だった。
「なんで」
ああ、やっと声が出た。君との全てを俺は覚えていた。何一つ忘れた事だってない。
「死んだ人間は蘇らないよ。」
その可愛らしい声で君は言う。優しい声なのに、諦めが混じっているのが分かった。俺は、いつの間にか涙が流れていて。視界が滲むのが煩わしくて。
目を拭った。
クリアになった視界は、君をもう映していなかった。
夢か幻か。そんな事も分からないまま、君は行ってしまった。
でも、床にローブと羽が一枚落ちていて。現実な事を知った。
三日月に照らされた部屋では、俺の泣き声が木霊した。
題:三日月
世界は、人によって見え方が違うという。僕の場合は、白と黒だった。所謂、モノクロというやつだ。微妙に、灰色とかがあったりはするが、大体、白と黒だった。
今日までは。
ブランコに跨がりながら、「これからどうしようか」と一人で考える。何が悪いかなんて分かり切ってた。僕は無意識の内に、涙が流れていた。
正直、結婚も考えていた。でも運命の人だと思ったなんて、月並みな言葉で言い表せてしまうのだから、きっと意味もなかった関係だった。
だけど失恋に傷ついた今だから、
「あ」
最初に見た時は、思わず声が漏らした。傍から見れば、ただ大人が泣いているだけだ。皆異様だと思って近付きさえしなかった。
なのに、その人は、
「大丈夫ですか?」
なんて言って、ハンカチを差し出してきた。
人の優しさに触れたからなのか、それとも現金な僕の一目惚れなのか、彼女の側は、色とりどりに見えた。
題:色とりどり
突然、世界中の糸が見えるようになった。といっても、糸というのは存外種類が多いらしい。
色でいえば赤、白、紫、金、緑、青、黄、黒、が主だった。でも俺には白の糸しか無かった。
なので、気になって俺についている白い糸を手繰っていくと、大嫌いなやつがいた。
なんで、この糸があいつと繋がっているのか分からなくて調べてみると、性別を超越した清潔な関係と出てきた。
まあ、確かに何もしていない清い関係ではあるけれど!そういうことじゃなくない!?
と、一人で問答していると、あいつが話しかけてきた。
「今日も今日とてお前は妄想か?そんなことしてる暇あったら課題くらいしろ。」
「あ゛あ!?」
あいつの神経を逆撫でする言葉がなければ好きになってたかもしれない。でも、性格がなぁ。
などと、思っている俺ではあるが、糸の両端がじわじわと赤く染まっていっているのは、まだ気づいていない。
題:赤い糸