「ここではないどかに行きたい。」
窓から紙飛行機を飛ばしているやつはそう言った。俺は何も答えられなかったから、紙飛行機を飛ばした。俺達の間に言葉は必要ないと思っていたが、こんな時ほど欲しくなるらしい。汗ばんだ体を撫でるように生温い風が窓から吹き込んだ。カーテンに一瞬隠れた顔が悲しげに見えた。
「俺が死ぬまでダメ。」
咄嗟に出た言葉だった。別に一生お前を縛りたい訳ではないと暗に言っているつもりだが、あいつは不機嫌そうに顔を歪めた。
「お前は、俺に最後を看取って欲しいのか?」
「だって、お前がいないとつまんないし。それにあと1ヶ月だしよくない?」
この言葉に嘘偽りはない。俺はお前の人生を奪うつもりはない。だから、俺が死ぬまでは一緒にいてほしい。
「随分と自分勝手なことで。」
「で、どうする?」
「……いいぞ。」
その言葉を聞いた瞬間、嬉しくてたまらなかった。独りでいる事にならなくて。俺の人生を喜劇にしてくれた人と一緒にいれる事になって。
ここではないどこかから吹いてきた風は病室に夏の始まりと命の終わりを知らせていった。
題:ここではないどこか
その日は、快晴だった。ただ、その分湿気も凄くて。夏真っ盛りって感じだった。
電車に乗った時にあいつはいた。夢かと思って頬を抓るが、どうやら現実らしい。
どうも気まずくて、俺はそそくさと電車を降りた。くっそ、運賃が無駄になった。
イライラしながら家に帰ると、少し冷静になれた。
さすがに、あの態度は良くなかったな。うん。
そう思っていたら、ピンポーンとチャイムが鳴った。何の警戒もせず開けると、そこにはあいつがいた。息切れしてる様子から察するにあいつは走ってきたらしい。興奮を隠しきれないようで勢いのままに、あいつは言った。
「俺死んじゃったみたい!」
「は?」
何を言っているんだこいつは。
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冗談だと思った。だけど、真実だった。あいつの体は少し透けていたし、触れられない。でも、意志疎通は出来るし無機物なら触れる事が出来るという奇妙な状況だった。
「で、何で来た。」
「宙に浮いてたらお前がいたから。」
なんともバカらしい理由だ。普通はパニックになりそうなものだが。どうやら、あいつの能天気さは変わっていないらしい。
題:君と最後に会った日