藍瑠

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「ここではないどかに行きたい。」

窓から紙飛行機を飛ばしているやつはそう言った。俺は何も答えられなかったから、紙飛行機を飛ばした。俺達の間に言葉は必要ないと思っていたが、こんな時ほど欲しくなるらしい。汗ばんだ体を撫でるように生温い風が窓から吹き込んだ。カーテンに一瞬隠れた顔が悲しげに見えた。

「俺が死ぬまでダメ。」

咄嗟に出た言葉だった。別に一生お前を縛りたい訳ではないと暗に言っているつもりだが、あいつは不機嫌そうに顔を歪めた。

「お前は、俺に最後を看取って欲しいのか?」

「だって、お前がいないとつまんないし。それにあと1ヶ月だしよくない?」

この言葉に嘘偽りはない。俺はお前の人生を奪うつもりはない。だから、俺が死ぬまでは一緒にいてほしい。

「随分と自分勝手なことで。」

「で、どうする?」

「……いいぞ。」

その言葉を聞いた瞬間、嬉しくてたまらなかった。独りでいる事にならなくて。俺の人生を喜劇にしてくれた人と一緒にいれる事になって。

ここではないどこかから吹いてきた風は病室に夏の始まりと命の終わりを知らせていった。

題:ここではないどこか

6/28/2023, 8:52:40 AM