五十作品目、ということで、これまでのお題から台詞を連想して並べてみました。それぞれに繋がりはありません。今日は1〜24&今日の分です。
#50 眠りにつく前に
「命が終わるその時まで、君を愛すると誓おう」
「君から手紙が来るだけで、この単純な心は舞い上がっちゃうんだよ」
「もう泣くのはやめろって。意味ねえだろ、いい加減諦めてくれ」
「お前に一面の花畑は似合わない」
「人工の明かりが、星の明かりよりも心を落ち着かせる瞬間がある」
「とっくに永遠は消えた。ここにはふたりしかいない」
「何よりも大事な時間なんだよなあ」
「一枚の美しい紅葉が、時を止めたような気がした」
「君がいちばん最後に忘れるのは、この声だと良いな」
「深い深い森で迷子になっても、どうせ探しに来てくれるんでしょ」
「形がなくたって、この手で握っておいてやる」
「あの景色を最期まで覚えておく。迎えに来てくれ」
「金木犀の香りが美しい季節だね」
「もうすぐ雨が来るよ。そうしたら森が青々とし始める」
「夜にだって強く香る植物はあるだろ」
「この部屋で命を持っているのは、あの花瓶くらいだろうな」
「明日もおはようを言ってくれるかい」
「じゃあね、夕焼けに連れて行かれないように気をつけて」
「奇跡なんかじゃない。いつでも会える」
「生まれ変わっても、お前の傍に」
「ねえ、この手を取っておくれよ」
「あーあ、あの星に触れたら良いのに」
「どこにいるかもわかんないで走って、いつの間にかこんなとこまで来たんだな」
「何があろうとこの手を離すものか」
「ぜんぶぜんぶ、愚かな人間たちのお話さ。寝物語にでもしてやってくれ」
*10/24「行かないで」の続きです。
──ただいま。
長い長い七日間がようやく終わった。
初めての遠征先は首都から遠く離れた山奥。魔獣の生息域や個体数の調査は勉強になったけど、電話が繋がらなくて知り合いと連絡が取れないのが辛かった。
特に、出発の間際に爆弾を落とした同居人と。
***
遠征の疲れで重だるい身体に鞭打って、家への道を早足で行く。調査書の提出は後日で良いとのことだ。部下への理解がある上司は、こんな時でも優しい。
久しぶりの街並みに思いを巡らせる余裕も無く、ひたすらに足を動かし続けた甲斐あってすぐに家に着いた。
魔法錠を開けて、荷物と一緒に中に身体を滑り込ませる。玄関には見慣れた靴が綺麗に揃えてあった。もう帰ってきているらしい。残業の多いあいつにしては珍しいことだ。
「ただいまあ」
荷物を引き摺りながら廊下を歩く。おかしい、リビングの明かりは付いてんのに人気がない。
「居ないのか?」
暖色の照明が灯る広い部屋を覗き込むと、灰色の髪がソファからはみ出ていた。
「お?」
(永遠に)
──君とだからっていうのもあるかも。
「ここが天国かもしれない」
「ちょっと落ち着こうか」
顔を覆って震えながらそう呟くと、隣から至極冷静な声が飛んできた。
***
死ぬまでに、どうしても行ってみたい場所がある。
水中図書館。
古代魔法が隆盛を誇った遠い昔、本を愛した一人の魔法師が生み出した不思議な場所。
それは山奥の巨大な湖に建っている。正しくは、沈んでいる。
当時は魔法の全盛期であると同時に、戦乱が絶えない世でもあった。何よりも本を大切に思った魔法師は、それらを後世に残そうと、誰も入って来られない湖中に図書館を作った。水に弱い紙を守るために、永遠に続く特殊な保護魔法を全ての本に施して。
──本を愛する者だけがこの門を潜る権利を待つ。
水中に沈む図書館の門に刻まれた文には魔法が込められており、貴重な本を持ち出して悪用しようと考える人間は建物に触れることすらできない。さらには、いつの間にか湖畔に打ち上げられているという。
(理想郷)
後日加筆します。水中にある図書館、浪漫がありますね。
*10/26のお題「愛言葉」加筆しました。
──話し切れないほどに。
同居人は、出かけた先でやたら写真を撮りたがる。
暖かい季節には一面の菜の花畑で、暑くなってきたら夏祭りのりんご飴を手に持って、金木犀が香ってくれば紅葉した葉を拾いに、ある時は季節外れの冬の海を見に行った。
浮遊魔法でカメラを浮かせては二人で撮る写真に、初めは慣れなかったものだ。今では、外出する際には必ず鞄に入れるほどに馴染んだが。
慣れとは不思議なものだ。
***
年末の大掃除はどこの家でも恒例だろう。日頃から片付けるようにしていても、なぜか溜まっていく紙類にため息が出る。なんだ、この家には増殖魔法でもかけられているのか。
不要な古紙をまとめて紐で縛ったところで、後ろから声が降ってきた。
「なあ、これ見て」
「なんだ」
(懐かしく思うこと)
後日加筆します。
なんだか季節外れの話になってしまいました……。
──君たちの幸せを願おう。
「なかなか上手く行かないものだな」
水の神が言う。
「そうかい? これでも進展した方だと思うけれど」
風の神が言う。
「まあ最初に比べればなあ」
土の神が言う。
「ちょっと、うちの所の子も頑張ってるんだからね」
植物の神が言う。
四柱の神々が覗き込むのは不思議な水鏡。彼らによく似た容姿の人間たちが、忙しなく動いている。
「何もここまでお前に似なくて良いだろうに」
「何が言いたいわけ」
「植物のが鈍感だってことだろ」
「はは、君を落とすのには苦労したよ」
「え? 最初から落ちてたけど?」
「……」
「あ、固まった。だいじょーぶか、風の。……動かねえな、植物のの天然タラシなとこも似たんじゃね?」
「同感だな」
「水のと土のも全然進まなかったけどね。横で見てる分には明らかに好き合ってるのにさ」
「そっくりそのままお前に返すわ、その言葉」
「……本当にね」
「復活したか」
「はあ……無自覚なのやめて欲しいな」
「何が?」
「こいつに自覚を求める方が無駄だろぉ」
「そうなんだけどねえ」
「だから何が?」
「お前は知らなくて良いことだ」
「気になるんだけど」
「気にするな。……ほら、進展があったようだが」
「え、マジ? おー、良い感じじゃん」
土の神がにんまりと笑みを浮かべる。
「この感じで上手く行くといいけどねえ」
風の神が苦笑する。
「さてな。全ては子供たち次第だ」
水の神が微かに口元を緩める。
「まあ、どうにかなるでしょ」
植物の神が柔らかく眼を細める。
四柱の神々が覗き込むのは不思議な不思議な水鏡。彼らの愛し子たちは、笑ったり泣いたりと忙しい。
四人の人間たちがどんな結末を迎えるのか。
さてさて、それは神々ですらも知らないのである。
(もう一つの物語)
いつもの四人を見守っているかもしれない神様たちのお話。この四柱は一切本編に登場しません。
好みも分かれそうなので、もしもの話、と思っていただければ。