柳絮

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9/23/2023, 11:24:45 AM

ジャングルジム


それは檻だった。幾人も仲間が囚われ、助けを求めて外へと手を伸ばしている。サツ共は周囲を警戒し、定期的に巡回している。
がサリと後ろの植え込みが鳴った。
「三谷」
「莉乃がやられた」
「くそ、これで何人だ?」
「4人だ。見張りは2人」
「俺が囮になる。その間にお前は莉乃たちを」
「……わかった」
島崎が走り出し、"警察"が動いた。
その隙にすばやく檻へ向かい、"泥棒"に次々とタッチする。
これでゲームは振り出しだ。





声が聞こえる


歌だ。
かすかに聞こえるメロディーに耳を澄ませる。窓の外、上方から聞こえてくるようだった。
聞いたことのない歌だった。明るい調子なのに、どこか切なくなるような。歌詞は異国の言葉のようだった。
窓から身を乗り出しても歌声の主は見つからなかった。扉から外へと回り、建物の上へ上へと視線を巡らす。
一際高い時計台の窓に人影が見えた。長い髪が風に嬲られている。
声が一段と高くなり、やがて空に吸い込まれ消えた。

9/22/2023, 6:47:26 AM

秋恋


ひらり、と目の前で黄色い葉が舞った。
見上げると銀杏が空を埋めるように葉を広げていた。"満開"と表現したくなる鮮やかさだ。それが一枚、二枚とくるくる落ちてくる。
突然、風もないのに葉が大量に降り注いだ。視界が一瞬金色に染まる。
やがてそれが収まると、目の前には目を丸くした人が立っていた。銀杏の雨の間に一瞬で現れたようだった。
「葉っぱ、頭についてますよ」
不思議な光景を共有したその人は、そう言って笑った。

9/21/2023, 3:58:16 AM

大事にしたい


「三笠くん、3組の飯沼さんと付き合ってるんだって」
ポトリ、とミニトマトが箸の先から転げ落ちた。
えーウソー、と歓声とも悲鳴ともつかない声が続く。
正面のサキがこっちを窺っている。右のリッコちゃんは紙パックのストローから口を離さない。
「大丈夫」
「そ、そうだよね! ただの噂だし」」
「そうだよ!」
「いやそれはわかんないけど」
え、と固まる2人に告げる。
「初恋、だから。叶わなくても、この気持ちを大事にしたいんだ」

9/20/2023, 2:27:02 AM

時間よ止まれ


刺すようだった夏の光は遠のいて、風に心地よい冷たさが混じるようになった。
出番を待っていたガーデンテーブルにお茶の用意を整えて、おしゃべりをしたり本を読んだり、団欒のひとときを過ごす。ああ、秋だな、と高い空を見上げた。
ふと視線を下ろすと、姉が本の上に突っ伏していた。
「姉さん、寝てしまった?」
「ああ、何か掛けるものを持ってくるよ」
妹が姉の頬をつつく。
部屋へと向かいながら、この幸せが続くことを祈った。

9/18/2023, 2:33:31 PM

夜景


夜景は冬に見るものと相場が決まっている。
夏の夜は短いし、空気も澄んでないし、どうせ見るなら花火が良い。暑いし、それに……ともごもご言い続ける間にも、彼女は一心に外を見ていた。
「黒田くん」
「は……はい?」
「きれいだねぇ」
その横顔は、無理やり連れてきた相手のことも、そいつが垂れ流す文句も、まるで意識に入らないかのように純粋に輝いていて。
「はあ、まあ、そうっすね」
あんたの方がきれいだよ、と悪態をついた。





花畑


私たちは一枚岩なんかじゃない。
花奏さんはそう言った。一致団結なんてしない、と。
一期生や二期生の頃ならともかく、もう数えきれないほどの女の子が入ったり出たりしたこのグループは、人間関係も力関係も捻れて絡まって千切れて、もうぐちゃぐちゃだった。敵も味方もどちらでもないのも渾然一体だ。
流行りの大所帯アイドルの成れの果てはこんなものだった。
花畑と同じ。遠くから見ればきれいだけど、近くで見ると穴だらけ。

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