柳絮

Open App

夜景


夜景は冬に見るものと相場が決まっている。
夏の夜は短いし、空気も澄んでないし、どうせ見るなら花火が良い。暑いし、それに……ともごもご言い続ける間にも、彼女は一心に外を見ていた。
「黒田くん」
「は……はい?」
「きれいだねぇ」
その横顔は、無理やり連れてきた相手のことも、そいつが垂れ流す文句も、まるで意識に入らないかのように純粋に輝いていて。
「はあ、まあ、そうっすね」
あんたの方がきれいだよ、と悪態をついた。





花畑


私たちは一枚岩なんかじゃない。
花奏さんはそう言った。一致団結なんてしない、と。
一期生や二期生の頃ならともかく、もう数えきれないほどの女の子が入ったり出たりしたこのグループは、人間関係も力関係も捻れて絡まって千切れて、もうぐちゃぐちゃだった。敵も味方もどちらでもないのも渾然一体だ。
流行りの大所帯アイドルの成れの果てはこんなものだった。
花畑と同じ。遠くから見ればきれいだけど、近くで見ると穴だらけ。

9/18/2023, 2:33:31 PM