ことば、行動、目、仕草。
優しさの表し方はひととおり体得していた。
でも、たった1人。
たった1人の存在で、その優しさは数段上の優しさに変わりうる。
言葉じゃないところに、行動の余白に、瞳の奥に、仕草の余韻に、深い愛情をもってして、底知れぬ優しさが放出される。
たった1人の存在から放出された、その優しさに当てられて、気づけば自分も放出していく。
まずは相手に。
次第に周りへと。
優しさは波及していく。
愛おしく思う気持ちが、次第に人々を変えていく。
奥深い優しさは、とても心地いいものだから。
スマホ片手に検索する
『ミッドナイト』
真夜中と思っていたが、
厳密には午前0時のことらしい。
昼の12時が「noon」
夜の12時が「midnight」
そうか、ミッドナイトは、
シンデレラタイムのことだったのか。
おかしい。
何かがおかしい。
世界がとても、色褪せている。
色褪せているどころか、モノクロと言ってもいいくらい、世界から色が消えていた。
一体いつからこんな世界になった?
昨日?
わからない。
一昨日?
わからない。
気がついたら、世界から色が消えていた。
正直、色なんて、気にする余裕もなかった。
日々いっぱいいっぱいで、一生懸命で、目の前の色なんて気にする余裕はなかったんだ。
「どうした?ぼーっとして。」
『いや、世界から色が…、消えたんだ…。』
「色が消えた?色が認識できなくなったか?」
『……なんというべきか。たぶん色は、見えてるんだと思う…。色鮮やかさがなくなったというか…。』
「そうか…。極端にいうと白黒の世界?」
『うん、まぁ…。極端に言えばね。』
「そりゃあれだけ毎日、頑張ってればな。
休めって俺が言ったって、どうせ聞きゃしねぇんだから、俺がありがた~い話をしてやろう!」
『いや、いらな…』
「なぜ世界が白黒なのか!
それはな、お前が真っ正面に光を見据えて突き進んでるからだよ。
カメラで写真を撮るとき、ギラッギラ輝いてる太陽に向かって写真を撮ったらどうなるよ?手前の物は真っ黒に写っちまう!逆光って言えばすぐイメージつくだろ?
つまり、逆光状態になってるから、白黒なのさ!」
『はぁ…』
「だから!今お前の見えてる世界が白黒なのは、自分の目指してる光を真っ直ぐにとらえて頑張ってきたって証拠なの。頑張ってきたんだよ。むしろ、頑張りすぎてるってことさ。
世界が白黒に見えるなんて、ヤバいってことは分かるだろ?」
『…うん。まぁ…。』
「まぁ…、じゃない!やばいんだ。
頑張りすぎて、やばいんだよ。今のお前は。
普段、世界はカラフルだろ?他の人だってそうだ。世界ってのは元々色鮮やかなんだよ。
どうすれば色鮮やかな世界になるか。光に向かって真っ直ぐ進まなきゃいいんだ。斜めから見るんだよ。何なら後ろから光に照らしてもらえ!光に背中を押してもらいながら進むんだ。
真っ直ぐに進まなきゃいけないなんてことないんだから。
光だけ見て真っ直ぐ進んでたら、断崖絶壁まで克服しなきゃなんねぇじゃねえか。まわり道も必要なのさ。斜めから見た方がより世界は見えるんだよ。より簡単になることもある。
そんなに頑張りすぎるな。手を抜くぐらいでちょうどいいんだから。
それじゃ!光に背中を照らしてもらうために、反対向くぞ!」
『反対向く…?』
「休憩取るんだよ。
光に向かって作業してたんだから、その逆、作業の手を止めれば、背中照らしてもらえるだろ?
まずは、休憩、取るぞ。」
どこまでも続く田んぼを駆けている。
稲は刈られ、青い草が生え始めた田んぼだ。
脚の筋肉を使って、全速力で駆けていく。
勢いはついた!
サッと両腕を広げる。
ふわっ
勝手に上に上がっていく。
ぐんぐん上がって空にぶつかりそうだ。
イタ!
ほんとにぶつかった!?
どんどん高度が下がってゆく。
空を飛びたいのに!
結局地面に近付いてしまった。
仕方がないからまた地面を蹴飛ばす。
ふわっと上がって広大な土地を見下ろした。
見えるもの全てが、自分の物のような、
そんな不思議な感覚に、私の胸は満たされた。
こんな夢を見た
会える見込みは低かった。
事前に約束しているわけでもない。
何なら移動はしないと伝えていた。
けど、会える可能性が少しでもあるなら、会いに行きたいと思った。距離は関係ない。陸続きでさえあれば会いに行けた。
後悔したくなくて行動に移した。
寝袋と必要そうなものだけ適当に詰め込んで、無計画に車に乗った。
君には会いに行っていると伝えなかった。
ただ「家出して旅に出る。探さないでください。笑」と。
限られた期間内にたどり着かないかもしれない。
君が家から抜け出せるとも限らなかった。
余計な期待や葛藤をさせて心を煩わせたくなかった。
会えるかもしれないと思えば、移動は苦ではなかった。
休憩に立ち寄った場所から旅の写真を送った。
食べ物はディスカウントストアで適当に。
比較的安い温泉を探し、湯船にだけは贅沢にも浸かった。
寝場所を探し、「少しお借りします」と車を停め、寒波が襲う中、寝袋と毛布にくるまった。
微塵も苦ではなかった。
むしろ、達成感のようなものを感じていた。
旅の写真を送りつつ、着実に君の元へと近づいた。
ようやく君のいる町へと着いた。
君がよく見知っている建物の写真を送りつつ、「会えるタイミングはない?」と尋ねた。
なかなか既読がつかない。
不安と期待が渦巻いていた。
やることもないから、車内で休んでいた。
思っていた以上に体は疲れていた。
日差しが暖かく、心地いい。
返信が来た。
「ほんとに?
今どこにいるの?」
「まだここにいるよ
どこにでもいけるよ
会えるなら
会えなくても…、まぁ…、いいけど」
「そこ」
「じゃ、ここにいる」
たったの20分、待つだけだった。
期待に胸が膨らんだ。
見知った車が駐車場に入ってきた。
そこには8ヶ月もの間、会うことの出来なかった君の姿があった。
総移動距離3,064kmにもなった旅の序章である。
君に会いたくて