【題目しらず】
それは奇妙な植物だった。
桃の形をした葉の先端を少し伸ばしたような葉。
ハートと言ってもいい。
その葉は細長い茎についている。
2本の茎がこれまた細いひげ根から延びていた。
どこが奇妙か?
その植物が奇妙なのではない。
その植物が生えている場所が奇妙なのだ。
私にはそれが目と鼻と口がついているように見える。
そのてっぺんには直径10cmほどの穴が開いていた。
中を覗くと薄ピンク色の培地が見える。
その植物はその培地に根を張り、懸命に生きていた。
風が吹けば簡単に倒れてしまいそうなその草は、世間では薬草として珍重されている。
頭痛にホルモン異常、動悸に不安症とあらゆる症状に効果があるらしい。
丸薬にして飲むのが主流だ。
ただし、どこで採れるか、どう生産されているかは限られた生産者しか知らないという。
今日も向かいに座る禄兵衛さんが笑顔で喋りながら飲んでいる。
全てを飲み込む深淵の中で
光輝くというのはなかなか出来ないだろう
光さえも飲み込む暗黒の中で
光輝けば消耗するだけだ
どんな逆境にも輝くことはできる
でもそれをすると
周りの人が錯覚する
彼のやっていることは大したことないと
彼の努力は時に怠けていると捉えられ
もっと頑張るようにと叱責される
本当の闇に紛れ込んでしまった時
爆発的に輝くことよりも
息を止めて空気を温存するように
体力気力を温存して
活路が見いだせるところまで
進んでいくことが大切だ
闇が晴れだすその瞬間に
爆発的に光輝けば
光が飲み込まれることなく
世に届く
あぁ…落ちていく…
落ちていく…
高く昇った花びらは
ひらりひらひら
落ちていく…
落ちきる前に手のひらで支えたい
でもそれさえもひらりとかわす花びらがある
あぁ…落ちないでくれ…
落ちると苦しい…
周りの酸素がなくなるような
そんな苦しさが私を襲う
でも心配はない
地に落ちた花びらは
その地の肥やしと化すのだから
そう思う他ないだろう…?
夢を持て夢を持て
子どもの頃は本当によく言われる
でも夢を持たせておいて
その夢を現実でぶち壊してくるのは
子どもに対して酷な仕打ちであるとも言える
ある女の子がいた
天真爛漫で少し男勝り
スポーツ万能で困っていることもない
彼女は野球が好きだった
彼女には夢があった
「甲子園に出てプロ野球選手になる!」
小学生の彼女は母に言った
「野球部に入りたい!」
母は聞いた
「なんで野球部に入りたいの?」
彼女は言った
「甲子園に出てプロ野球選手になるから(^^)」
母は申し訳なさそうな顔をして言った
「やめときなさい」
彼女は返した
「なんで?他の男の子より私上手いんだよ?」
母は言った
「女の子はプロ野球選手になれないの」
彼女は何を言われているかわからない
母は続けた
「甲子園にも出れない」
彼女はようやく何かを理解して言った
「女の子だから出れないの?」
母は苦しげに言う
「そう…」
彼女はパッと顔を輝かせて言った
「皆下手だから出られなかったんだよ
大丈夫、私が初の女性選手として出てみせる!」
母は落胆して言った
「ルールで女の子は出れないって決まってるの…」
彼女は現実を知った
「おかしいよ。そんなのおかしいよ!
女に生まれたからできないの?
じゃあなんで女に生んだのさ!
女になんて生まれてきたくなかった!
なんでこんな体に産んだの?!
産まないでくれた方がよかった!」
母は苦痛に顔を歪めそうになったが、その顔を見せることはなかった
夢を描け
青がどこまでも青くなると
どうなるのだろう
青い空に青い海
青を求めて天高く昇れば
天を突き抜け宇宙へと到達する
濃い青からきっと一気に
闇深い黒へとなるのだろう
青を求めて地底深く潜れば
光も届かぬ深海へと到達する
鮮やかな青に次第に黒が混じりだし
闇深い黒へとなるのだろう
青い青い空と海は
暗黒へと変わるのだった