とらた とらお

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会える見込みは低かった。
事前に約束しているわけでもない。
何なら移動はしないと伝えていた。

けど、会える可能性が少しでもあるなら、会いに行きたいと思った。距離は関係ない。陸続きでさえあれば会いに行けた。

後悔したくなくて行動に移した。
寝袋と必要そうなものだけ適当に詰め込んで、無計画に車に乗った。
君には会いに行っていると伝えなかった。
ただ「家出して旅に出る。探さないでください。笑」と。
限られた期間内にたどり着かないかもしれない。
君が家から抜け出せるとも限らなかった。
余計な期待や葛藤をさせて心を煩わせたくなかった。

会えるかもしれないと思えば、移動は苦ではなかった。
休憩に立ち寄った場所から旅の写真を送った。
食べ物はディスカウントストアで適当に。
比較的安い温泉を探し、湯船にだけは贅沢にも浸かった。
寝場所を探し、「少しお借りします」と車を停め、寒波が襲う中、寝袋と毛布にくるまった。
微塵も苦ではなかった。
むしろ、達成感のようなものを感じていた。

旅の写真を送りつつ、着実に君の元へと近づいた。

ようやく君のいる町へと着いた。
君がよく見知っている建物の写真を送りつつ、「会えるタイミングはない?」と尋ねた。
なかなか既読がつかない。
不安と期待が渦巻いていた。

やることもないから、車内で休んでいた。
思っていた以上に体は疲れていた。
日差しが暖かく、心地いい。

返信が来た。
「ほんとに?
 今どこにいるの?」

「まだここにいるよ
 どこにでもいけるよ
 会えるなら
 会えなくても…、まぁ…、いいけど」

「そこ」

「じゃ、ここにいる」

たったの20分、待つだけだった。
期待に胸が膨らんだ。
見知った車が駐車場に入ってきた。
そこには8ヶ月もの間、会うことの出来なかった君の姿があった。

総移動距離3,064kmにもなった旅の序章である。



君に会いたくて

1/19/2023, 3:12:57 PM