佐々宝砂

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10/4/2024, 10:49:38 AM

踊りませんか?

その誘いに乗るということは、あたしにとってはただ一度だけのこと。あなたにとっては数多くの適当なお誘いのひとつ。それくらいあたしだってわかっているわ、だけどあたしはあなたにそれを言わない。だってそんなこと言ってもこれっぽっちもいいことないし、よく考えたらあたし、あたしの身の上にいま何が起きてるかわかってないのだわ。夢かおとぎ話でないのならいま起きていることはなんなのかしら。あなたがツァーリと呼ばれているのをあたしは聞いてしまった。でもあなたにどんな立場の誰だとしても、あなたが「踊りませんか?」と言ったら断れるわけがないのよ。あなたがツァーリであっても、なくても、あたしの気持ちは偽れないのだもの。

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元ネタは映画「会議は踊る」です。よくある男爵令嬢や平民の女の子が王太子をたらしこむ話を書いたんじゃありません。そうした話の元ネタの一つとして「会議は踊る」を見てほしいかなと思いました。最近の異世界恋愛ものでは悪役になりがちな平民ヒロインの愛らしさを、たまには堪能してみてください。

10/3/2024, 10:43:49 AM

巡り会えたら

この脱力感。つまらなさ。ありきたり。凡庸。どうでもいい。人間の欲望のあさましいこと。まあ毎度のことだな。そう思いながら書類を分類する。ここは基本的に人間の願いをかなえるとこなの。

幸運に巡り会いたいみなさんはこっちの山。不運に巡り会いたいみなさんはこっち。割といるんだよ? あと驚きがほしい人はこっちの山。特にそういうの望んでない静かに穏やかに暮らしたいみなさんはこっちの山。で、ここのすっごい少数派は「巡り会いたくない」みなさん。じゃないな、ほぼひとり…? だよね、確認したよひとりだ。何度輪廻しても願いが「巡り会いたくない」なんだよ。この人どういう人なんだろう。

転生事務局の祈祷申請課で私は一枚の書類を見つめる。私は一介の下っ端天使だけど、この「巡り会いたくない」人に巡り会ってみたい。すっごく迷惑がられそうだけど。というかこの人のことやたら気にしてたらこの部署クビになりそうな予感。

10/2/2024, 10:46:21 AM

奇跡をもう一度

奇跡は二度ないから奇跡なのだ、人の子よ。私は二度目の奇跡を願って祈る少女を見つめた。少女の父親は一度重い肝臓の病から奇跡的に生還した。私の力でそうしたのだが、二度目はない。あの男はまた酒で己の肝臓を痛めた。全く愚かなことだ。奇跡を願う少女も愚かだ。むしろあの男がいなくなるほうが幸せになるであろうに。人間は基本的に愚かだ。少女の背後で舞う落ち葉が一瞬ハートのかたちに並ぶ。ああいうなんにもならない奇跡が毎日起きていることに気づかず、自分の心の安寧のためだけに奇跡を願う。人間というものは理解し難い。時に奇跡を起こせる精霊である私は、もう長く…本当に長く生きたが人間がわからない。いつかわかるかもしれぬ。奇跡は日々起きているのだから。

10/1/2024, 10:29:51 AM

たそがれ

薄い皮一枚へだてた向こう側の薄明界は、たそがれのときにもっともこの世界と近くなるのだと先生は言った。まるで薄明界に去っていったかのごとく先生は行方不明になってしまったのだけど。

たそがれどきがくるたびに僕は街を歩き、幻の瓦斯灯を探す。そこが入口かもしれないと先生が言ったからだ。…見慣れた路地に見慣れぬ袋小路があったらそこ…と先生は言ったっけ、思い出せないがこれは案件だ。

この街生まれで知らぬ路地などないはずの僕の前に現れた知らぬ袋小路の奥に小さな石造りの階段がある。この先に、先生はいるのだろうか。

「夜明け前」の続編です。

「夜明け前」
https://kaku-app.web.app/p/6yF5oQgk2XKFngdEq2ek

9/30/2024, 10:44:58 AM

きっと明日も

夕空を見上げる。もうすぐ日が落ちて、丘の下に見えるどの家も夕食の時間を迎えるのだろう。ぼくは今日のことを思い出す。祝日だからゆっくり寝ようと思ってたのににーちゃんに起こされて釣りに行った。いつもの七曲りの池で女の人に出会った。長い綺麗な黒髪の女の人だ。

「あらまた会ったわね。75回目くらいかしら?」

女の人が言うにはぼくたちは何度も何度も同じ一日を繰り返しているらしい。もちろんそんなの嘘だろう。にーちゃんは女の人を睨みつけ「それをこいつに言うな、こいつを絶望させたくない」と言い出した。ぼくは女の人と言い合ってるにーちゃんをほっといて森に出かけて一日遊んでた。夕方の空の雲は毎日昨日とは違う。きっと明日も違う。

にーちゃんはなんであの女の人とあんなに口論したのだろうか。ぼくは明日もあの女の人に出会うのだろうか。そのときぼくはいまのこの思いを覚えているのだろうか。

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