心の片隅で
心に片隅があるということは、心は広大な空間や広場みたいなもので中心があるのだろうか。中心にあるのは普通自我だろう。そんなことを思いながら、ぼくは君の心を視る。心は言語と五感とモヤモヤでできていて、言語や視覚、聴覚はかなりわかりやすい。他の感覚はちょっとわかりにくい。モヤモヤはいまだに意味がまるでわからない。君の場合、出会ったころはモヤモヤが小さくてそれこそ心の片隅でひっそりしている感じだった。それが今や君の心のほとんどを占めている。君の心の片隅にある君の自我の叫びが、つらくてたまらない。君に何が起きているのだろう。
雪の静寂
ここは南の島だから雪なんか降らない。…そう、降らないはずだったが、あたり一面真っ白なものに覆われている。まるで雪原のような銀世界だが、あれはサンゴ由来の死の灰だ。人の声は絶え、生きて動く物の姿は消え、魚は海に浮かび、常夏の南の島に、水爆の雪の静寂。
君が見た夢
もう、すべては過去形だ。君が愛した花、君が愛した音楽、君が愛した星、そして、君が見た夢。僕は何年も研究を続け研究所の所長にまで登り詰めた。君の大脳からどうしても情報を取り出したかった。動物実験では、犬が見た記憶を映像として取り出すことに成功した。音声はまだ取り出せていないが、映像だけでもいい。ようやく君の情報を見ることができる。僕の胸は高鳴った。再生が始まる。醜い表情の男がこちらの顔を、つまり君の顔を殴りつける。誰だこの男は。映像を一緒に見ていた部下が言った。
「きれいに抽出できましたね、これ所長ですよね?」
☆☆☆
まあたいがいひどいもん書いてますのに、それでも♡くださるみなさま本当にありがとうございます。みなさまのおかげで書き続けていられます。モチベーションをいただいております。
明日への光
明日への光だあ? はあ。またその手のやつが出てきたか。あのな。光は単に光だし、明日はほっといてもくるぜ? 俺やおまえが明日に行けるかどうかは別な話だが。そういう問題じゃない? いや困るなあ。俺その手の抽象的なテツガクは不得意なんだよ。光はなんかの喩えと考えろって? はあ。わかった。光は速い。とにかく速い。一番速い。なんでだと思う? 速くなけりゃ光じゃなくなるからさ。そんな最速の光だって明日には届かない。明日を照らすのは明日の光だ。
いやもちろん、光が希望の喩えだってことくらい俺にもわかるよ? 明日への光について語る前に明日の光のための燃料作っとけ。
☆☆☆
いまいちだけどこのままにしておきます。この語り手のおっちゃんキャラがわりと気に入ったので。「星になる」のお題のときの語り手と同じおっちゃんだな、たぶん。
星になる
星になりたいだと? いやあ久しぶりにバカがいたな。愛すべきバカではあるが。今すぐ星になりたいなら、ロケットで打ち上げて大気圏外から落ちてくりゃ流れ星にはなれるが、死んじまうからお勧めできないな。死んでから星になるのでよきゃ、ガス状星雲に遺体をぶち込むのがいいと思う。一億年以内には星になれる。でもな、あと五十億年経てば俺たち漏れなく自動的に星になるぜ。太陽が膨張して地球を呑み込むからな。そんなに待ちたくない? じゃひとついいことを教えてやろう。俺たちはもともと星だったし、今も星の一部なんだ。カール・セーガンも言ってるだろ、"We are made of starstuff."ってさ。俺たちは星になる必要がない。すでに星だから。