ささほ(小説の冒頭しか書けない病

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11/17/2024, 12:41:17 PM

冬になったら

「冬になったら」とは夢見がちすぎる。この土地に…いや、はっきりいうべきだろう、この星のこの土地に冬はこない。冬をもたらすファンタスティックな存在と、冬をもたらす科学を追求した存在と、それらが同等に思えるほど我らはどうしていいかわからない。ファンタジーと科学が手を結んでここに春を作れると言い出したので領主である私は怖い。こいつらに春を作らせていいのだろうか。作らせなかったら私はひどい主と言われそうだ。

11/15/2024, 10:14:18 AM

子猫

子猫じゃなくて老猫とかバチ猫とかだったら書く気になるんだけどなあ。こねこ。子猫の話ってなんかあったっけ?

ところで「子子子子子」と書いて「ねこのこねこ」と読んで歌舞伎の女鳴神の一種らしいんだけど調べてもよくわからない。「子子子子 子子子」とか「子子子子子子子子子子子子」は検索するとすぐ出てくるのになあ。歌舞伎の鳴神は面白い。ハニートラップに引っかかった鳴神上人が怒り狂うお話で、ほとんどラノベである。そういう面白いネタを女主人公にしてみましたというのが女鳴神で、やっぱりラノベである。歌舞伎ってとってもラノベ。

いやなんの話だっけ。子猫だ。子猫は神なので人は子猫について語ってはいけないのである。

11/14/2024, 10:25:23 AM

秋風

秋の風は色なき風、秋の色は白、そうよ秋には色がないのよとあのこは言った。秋の日差しの下、色白な頬にはそばかすが散って、あのこが眩しくて、よく見ることができなかった。よく見ておけばよかった。あのこはあっさりと交通事故で死んでしまったから。この世界には色がない。秋であろうとなかろうと、私の世界の風にはもう色がない。あのこがみんな持っていってしまった。秋の風は色なき風、秋の色は白、秋には色がないのだとしたら、私の人生はもうこれから先ずっと秋なのかもしれない。


※※※

以下蛇足。蛇足が本編なのはよくないと思うので改めたい。改めたいが、これ、真面目に蛇足が本編だよね?

色なき風が秋の季語で、秋の色が白というのは事実です。秋の色が白というのはたとえば北原白秋の名の由来が秋は白、なんですよ。

これ中国の古い考え方で、たとえば春を青とします。青春という言葉はそこからきてます。ちなみに夏は朱色なので朱夏と申します。冬は玄で黒いんですね。冬は雪で白そうなもんですが、実際は絶望で黒くなるのかもしれません。

私は春が青で、夏が朱で、冬が黒なのは納得するんです。春はまあ芽吹きの青でしょう。夏の朱は暑さを象徴する太陽の色でしょうし、花の色であるかもしれません。

でも秋が白いのは納得いきません。秋は実りの季節です。山は実らぬとしても紅葉に彩られ、俳句の世界でもそれを「山粧う」と呼んだではありませんか。なのに、どうして、秋の風には色がないというのでしょうか。 

昔の日本の詩に書かれた秋は、とても硬質で、色がなくて、それでもとても美しいものでした。たとえば「カチリ、石英の音」を秋とする詩はたいへん美しいと思います。この短い詩を私は井上靖の文章で知りました。

秋の異常透明の空を見上げれば、確かにこの季節の風には色がないのかもしれないと思います。秋空の透明感は他の季節にはありません。あの素晴らしい透明感を「色なき風」と言ったり「白秋」と言ったりするのは分からないでもないです。

秋は無彩色も似合うくせに、本当は彩りの季節であると私は思います。秋の山を歩けば、山柿、あけび、野ブドウ、足元を見ればハツタケ、アカモミタケ、ハナイグチ。たくさんのおいしい秋の恵みが秋の山を彩ります。そもキノコがたくさん生えてる時期の山はすてきにキノコの匂いがするんです。匂いに色があるならあれは派手なバラ色です。

私がいちばん好きなのはハツタケですが、これは見た目地味なキノコです。しかも傷をつけると青変します。見た目はすごい毒々しいですが美味しいキノコです。アカモミタケはハツタケと形は似てますが鮮やかなオレンジのキノコでとても美しいし美味しいです。まさに秋らしいキノコ。

私の秋ははなやかです。それは秋の恵みのおいしさを教えてくれた祖父や祖母のおかげです。白秋が「黒猫の耳鳴りのごとく時は逝く」と書いたようにひっそりと過ぎてゆくのが文学的な秋かもしれませんが、まあそれはそれとして、私の秋は、はなやかであるまえに、とても美味しいのです。北原白秋もたぶん美味しい秋は知ってたんじゃないかなと思います。

11/13/2024, 10:25:33 AM

また会いましょう

ドアーズのCrystal Shipが聴こえる。私をメランコリーの闇に落としたあの暗くてきらきらした音楽が。また会いましょうの声。繰り返す悪夢のように繰り返す「また会いましょう」…原文でいうとWe'll meet again, we'll meet again。誰がまた会うというの? また会わなければならないの? 自宅のドアを開ければぐらぐらとたくさんの口にそれぞれ牙を生やした闇が私に噛みつこうとする。それをいなして廊下を走って寝室のドアを開ける。あふれる波のように連なる眼球の群れがこちらをぎろりと睨みつける。それでも私はドアを開ける。望んでドアを開ける。私の意志で。また会いましょうの呪いを胸に…いやこの鼓膜に刻んでしまったから。私はあなたにまた会うためにドアを開ける。

11/13/2024, 9:54:30 AM

スリル

スリルを求めたらろくなことにならない。それは知ってる。というか知ってるつもりだった。夜0時、日が変わる時刻にスマホと鏡を使って合わせ鏡をすると「とてつもないスリル」が味わえる、とバカバカしい話を聞いたときぼくはただ笑った。そうだよあんなことするつもりじゃなかった。ちょっとストロングなチューハイをうっかり3本飲んで鏡に向かったら、ほんの出来心で…スマホと鏡で…ぼくが悪かったです。出来心でした。もうしません。スリルはもう全然いりません。だからどうかここからおろして。あたりいちめんは火の海、ぼくは一本の細い綱に繋がれなんでこんなところに連れてこられたのかさっぱりわからないけどたぶんぼくのせい、そしてここはきっと地獄。

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