「君が見た景色」
何色でもいい、全てを共有したい。
そんな僕の独占欲。
一つだけでいい。
貴方の見る景色の中で一つだけ、共有したい。
全てをわかりあうなんて不可能だけど
一つだけでいいから。
貴方と同じ宝物を共有したい。
そんな私の願望。
「真夏の記憶」
炎天下の中疾走して全てから逃げた夏
何もいらない、何もかも捨てて自我すら捨ててただ声なき声の恐怖に苛まれながら、身を切り走った。
その時の恐怖の残像が10年以上たった今でもチラリと覗く。影を踏むように、後ろを振り向くと、あの夏の記憶が私を黒く染める。
それでも、何もかも壊れてしまった精神でも、残骸は少しずつ生き延び形を変えて、今に適応している
これは奇跡だ。そう言うのは簡単だけど、並大抵の努力では辿り着けない自己再生をやってのけたのだと誇ってもいいかもしれない。
あの夏が今でも呼応する。それでも、未来は続いているんだよ、今をたゆまず生きる限り、最善の選択で貴方の記憶を迎えよう。
真夏の記憶、どうか眠れ。安らかに。
溢れたアイスクリーム、その雫の向こうで、君が細く微笑んだ。暑さにやられたのかな、熱を帯びた自分の脳は、君の一挙一動に目が離せず、瞬きをするその仕草すらも、愛おしい。
そう、愛おしい。好きだ、でも、愛してるでもなくただ、ただ愛おしい。
「アイス、溢れてるよ」
君の指摘にはっとした僕。気がつくとTシャツにアイスクリームがこぼれ落ちていた。
「ださ、子供か」
君がしょうがないなとでも言うように、笑みをこぼした。拭いてあげようと、手を伸ばした君の手を僕は掴んで、引き寄せた。
「暑い」
そう言う君の髪を撫でた。
愛おしい、と言うにはまだ幼い僕らの関係性。
それでも暑さにやられた脳は点滅信号を発する。
君の存在を僕の中からこぼしたくないのだ。
「泡になりたい」
水泡が天へと上がっていく。ここは海の底99番地。
魚達の住処にも住所がある。人間は知らないけどね。
僕たちの呼吸は泡となって地上へと登っていく。
僕は怖くて99番地から近くの海藻公園にしか行ったことがない。天上世界なんてもってのほか。
いつか泡と一緒に地上まで泳いでいけたら、世界が広がるのだろうか。そんな夢想を抱いては、僕のこの小さな体だと、道中に天敵達に食われるかもしれない。思わず想像して身を震わせた。
「行ってはダメよ。生きたいならね。」
幼馴染に強く反対された。「でも…」
僕が口を濁すと、「何匹も何千匹もその夢を語る魚には会ってきたけど、また海の底に戻れたのはほんの一握り。いいかい?地上は恐ろしい場所なんだ。」
幼馴染の好きな魚も地上を夢見ていつのまにかいなくなったのを聞いた事があった。だからだろうか、彼女の言葉は重みがあった。
僕はそんな勇気はない、ないから泡に願いを託す。
登りゆく水泡に、祈りをささげた。
海(世界)がもっと僕達にとって平和な日々が来ますように。当たり前に地上近くへと泳いで帰って来れるような、そんな奇跡が訪れますように。
水泡は静かに登っていき、そして見えなくなった。
「波にさらわれた手紙」
初めて書いた、初恋の君へのラブレター。中学二年生の時だ。僕は君への思いを手紙に綴った。直接言う事もLINEする勇気もなかった。仕方なく僕は君への溢れる感情を手紙という形で、ぶつけた。
冷静になって読み返すと、恥ずかしくてたまらなくなった。一度書いたものを破る事も、憚られ、捨てたらもし家族に見つかった時に、冷やかされそうで嫌だった。僕は考えに考えた末にラブレターを瓶に詰め込んだ。そして、家から電車で乗り継いで海へ行き、そっと流した。波が僕の思いを攫ってくれると思った。もし、誰かに拾われたとしても、個人を特定するのは不可能だ。僕は相手の名前と、僕の下の名前しかひらがなで書いてないんだもの。大丈夫、大丈夫。と言い聞かせて、波に飲まれる小瓶を見送った。
その時はまだ僕は知りもしなかった。
いつかの未来に、小瓶を偶然拾った相手が、まさか彼女のおじいちゃんだったなんて。
釣り好きのおじいちゃんが偶然見つけた小瓶の中身。
孫と同じ名前が書かれていて、気になって、家に持ち帰り、彼女の目に触れる事になるなんて。
そしてその出来事を、今僕に帰り道に教えてくれるなんて一体誰が想像していただろう。
世間は僕が思うよりも遥かに狭すぎる。
僕は手に汗握った。「私と同じ名前の恋文だって、おじいちゃん嬉しそうに話すのよ。変なの。」
彼女の話を聞きながら、僕は今一度大きく息を吸った。
本当のことを言うべきか、言わずに話を流すべきか、僕の中で天使と悪魔が囁き合う。
ふられても嫌われても、僕の思いをなかった事にはしたくはなかった。それを安易にすれば自己否定する事に思えたからだ。僕の中で数年後黒歴史になってもいい。腹を括った僕は彼女の名前を呼んだ。
彼女からの返答は「今は私、誰とも付き合えない。受験勉強に集中したいから。」
というそっけないものだった、けれど僕は脳内で小躍りをした。とりあえず、僕の奇怪な行動を否定も肯定もしなかった、その優しさに救われたのだ。
もしかしたら彼女は呆れていただけなのかもしれない。
それでも僕は去り際に彼女に言われた一言が忘れられない。
「波に流しても、意外と見つけて欲しい小瓶は波打ち際に戻ってくるもんだってじいちゃんが言ってた。見つけちゃってごめんね。驚いたけど、少し嬉しかったよ。」
彼女の笑顔が好きだな…って改めて思った。
見事に振られたのだけれど、それでも僕は彼女に恋をした自分が誇らしかった。
そう思ったらまたむずむずしてきて、手紙が書きたくなった。
週末は海に行こう…そして今度は彼女のおじいちゃんに見つからないように、もっと遠くの海へ宛名のないラブレターを流そうと僕は心に決めた。