「泡になりたい」
水泡が天へと上がっていく。ここは海の底99番地。
魚達の住処にも住所がある。人間は知らないけどね。
僕たちの呼吸は泡となって地上へと登っていく。
僕は怖くて99番地から近くの海藻公園にしか行ったことがない。天上世界なんてもってのほか。
いつか泡と一緒に地上まで泳いでいけたら、世界が広がるのだろうか。そんな夢想を抱いては、僕のこの小さな体だと、道中に天敵達に食われるかもしれない。思わず想像して身を震わせた。
「行ってはダメよ。生きたいならね。」
幼馴染に強く反対された。「でも…」
僕が口を濁すと、「何匹も何千匹もその夢を語る魚には会ってきたけど、また海の底に戻れたのはほんの一握り。いいかい?地上は恐ろしい場所なんだ。」
幼馴染の好きな魚も地上を夢見ていつのまにかいなくなったのを聞いた事があった。だからだろうか、彼女の言葉は重みがあった。
僕はそんな勇気はない、ないから泡に願いを託す。
登りゆく水泡に、祈りをささげた。
海(世界)がもっと僕達にとって平和な日々が来ますように。当たり前に地上近くへと泳いで帰って来れるような、そんな奇跡が訪れますように。
水泡は静かに登っていき、そして見えなくなった。
8/5/2025, 11:25:43 AM