towa_noburu

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6/26/2025, 4:07:50 AM

「貴方、自分が何をしたかわかってるの?」
お母さんの険しい形相に何事かと思い、僕は振り返る。
「獲物を逃したんだよ。あんなに貴方の側にいたのに。なんてもったいない事したのさ。1週間ぶりの食事だったのに。」
他の兄弟たちも後ろで唸って威嚇した。
僕は耳を下げ、尻尾を巻いて怯えながら後ずさった。
「だって…あの子は僕に優しかった。素敵なお花の咲く場所を教えてくれたんだ。」
そうだ。あの真っ白でふわふわのうさぎは僕を見ても怖がるそぶりをせずに、笑って「あなたいつも丘でお花を見てる狼の子供でしょ?」と話しかけてくれた。
そんな動物に出会ったのは生まれて初めてだった。だから嬉しくてついお腹の鳴る音を誤魔化した。それだけだ。
「それはいけない事なの?」
僕はお母さんに涙ながらに問う。
「いけません。」
お母さんはきっぱりと言った。
「いつか、あんたが傷つかないように。お互いに歩み寄らない方がいいこともある。
私はあんたより長く生きてるからね。」
お母さんは僕を優しく舐めた。
僕はお母さんの言った意味がわからなかった。
お腹の音と心が温かくなったあのうさぎとの会話。
どちらか一つしか選べないのだろうか。
僕は欲張りだから両方魅力的に思えた。
真夜中星降る夜、僕は夜空を見上げて母さんの言葉を思い出す。
「生あるもの何か食べないと生きていけない。そして、その食べる物には必ず命が宿っているのを忘れて噛んではいけない。」

後日、お母さんはある子うさぎを噛み砕いた。
僕は怖くて、あのウサギかどうか確認するのが怖くて、その光景から目を背けた。
なんて弱くてちっぽけなんだろう。
小さな優しさを心の中で大切に思うことすら、こんなにも難しいなんて。
それでも僕は泣きながら、母に背中を押されて兄弟達と同じように、命をいただいた。

側で綺麗な黄色い花が凛と咲いていた。
とても美しく儚い命が今日も根を張っていた。

6/24/2025, 11:55:15 AM

黄昏時の空は火のようだ。
こんなにも赤く染まる空は、誰もが燃え盛る炎を連想させるのだろう。
しかし、よくよく見ると、真っ赤に燃える空の色は幾重にも重厚に変化を刻んでいる。
その微細な色合いは決して炎では再現できないものだ。
やがて宵闇に化ける空は美しくもどこか張り詰めた空気を世界に放つ。
虫の声、獣の声、風の声、さまざまな声が重なり合って空と溶け合う。
しんと静寂が突き刺す森の中でも、よくよく耳を澄ますとそこには音がある。
虫たちも、鳥たちも、獣も、風も皆、空を見上げて生きる瞬間が必ずある。
その時はこう思うに違いない。
嗚呼空は、今日もあまりにも美しい。

6/23/2025, 10:54:21 AM

「…子供の頃の忘れられない夢の話をしよう。」
私は混雑する遊園地にいた。腕には愛らしいクマのぬいぐるみ。私はそのぬいぐるみを何故か死んだ母親の魂が宿った媒体だと認識していた。そして、そのぬいぐるみは喋る設定だ。
他に保護者がいない小さな女の子が遊園地入場の列に並んでいる。しかし入場受付係は、「大人一枚、子供一枚」と野太い声で喋るクマのぬいぐるみにも動じずに淡々と「かしこまりました〜!」とチケットの発行処理をした。私は母に問いかける。「お母さんとまた遊園地行くのが夢だった」クマのぬいぐるみ…もとい母は答える。「寂しい思いをさせてごめんね。今日は思いっきり楽しもうね」心なしか腕の中で母が私に微笑んだような気がした。
さて、私と母は久しぶりの遊園地を楽しむかと思いきや…そこに空から円盤の大軍が。遊園地を大占拠である。夢特有のやや突拍子もない場面転換だなとご容赦いただきたい。
宇宙人たちは入り口の片隅に人々を集めてこう宣言した。「ここは今日から我々の私有地とする。我々はずっと人間の作ったおもちゃで遊びたかった。我慢できなくて、何万光年旅してやってきた。思い出たくさん作る。」テレパシーで人々の頭の中に直接語りかけてきた宇宙人たち。母はそのテレパシーに何故か納得し…「なら仕方ない。」と呟いた。私は何万光年も旅してきたのだから宇宙人たちが遊園地を楽しんでもいいのかなと思ったが、「独り占めはよくないよ。幼稚園で遊具はみんなのものって教わったもの。」と小声で言った。その言葉を聞いていた周りの人たちは私の意見に同調して頷いた。
さらにその言葉を聞いていた宇宙人たちは「我々より下等生物な地球人類に…我々が諭されている?我々劣っていない。心外だ。けど、その意見も理解できる。」
宇宙人たちはフードコートの椅子に座り作戦会議をし始めた。
その隙に私と母は宇宙人たちの一瞬の隙をついて、入り口に向かう。そして、何故か拘束を免れていた受付係の人に、お願いをした。「あの宇宙人達なんとかして。」すると、受付係の人は「かしこまりました。」と言って、手元にある赤いボタンを押す。
すると宇宙人達が座っていた椅子が爆発した。
宇宙人達は空に吹き飛ばされ、星になった。
私と母はその光景を見届けながら呟いた。
「さぁ、まず何から乗ろうか。」
「お化け屋敷!」
そしてお化け屋敷に入る手前で実に惜しいことに目が覚めた。私は遊園地で1番お化け屋敷が好きなのだ。
怖さと涼しさは最高のスリルを味わえる。
「って言う夢を子供の頃に見たの、今思い出した。」
「まず、母さんを殺さないでよ、さゆみ。母さんバリバリ健康で生きてるんだから。」
「知らないよ。夢だもの。」
「まぁ、そうね…さて」
私と母は空を見上げた。

雲一つない晴天。
街の上空に飛来する大きな大きな円盤型未確認飛行物体。
「我々は…「「ああ、もうそういうのいいから!!」」
私と母は宇宙人の発するテレパシーを遮り、大声で叫んだ。
さて、これからどうしょうか。
私と母は顔を見合わせて、ニヤリと笑った。

6/23/2025, 9:50:44 AM

貴方の喪失は、自分の半身が引き裂かれるような痛みを覚えた。よく、心の中で生き続けると言うが、私はそうは思わない。私の心は貴方の喪失と共に粉々に砕けてしまったのだ。この地上で今呼吸を繰り返す残された体は、もう動くのが限界に近い錆びついた機械のよう。錆をさす油がないから、動かすたびにギシギシ軋む。目は虚。混濁した眼差しの奥にもう光を宿すことはないのだろう。
私の体が機械になってから3653日目の事だ。
いつものように、私は栄養ドリンクとサプリをなんとか喉に流し込み、仕事に出かける。
工場での流れ作業で機械の部品を淡々と点検する仕事だ。夜になり帰宅しようといつもの道を歩く…はずだった。金縛りにあったかのように、体がいつもの道とは違う小道に入った。私は体の故障かと疑った。ついに機械となった体もおかしくなったのかと。
その小道の先を何物かの力に引っ張られるように歩みを進めた。
あるダンボールの前で体は止まった。
「……?」
そのダンボールを覗き込むと、小さな白猫がミャアミャアと鳴いていた。
その猫を凝視しながら、遠い記憶の中で埋もれていた貴方の声がはっきりした。
「私の言葉覚えてる?この子と暮らさない?」
残念ながら、貴方が過去に言った言葉はもう辛すぎて思い出すと痛みが生まれる。
それでも、体はその子猫を優しく抱き上げた。
機械の体の日常に猫が加わった。
ただ、それだけの違いなのに。
冷えた心臓が少しだけ温かくなった。
それは錯覚かもしれない。
けれど、私を見上げる猫の曇りのないガラスの瞳は、全てを見通して今日もニャアニャアご飯をねだる。

6/22/2025, 6:31:57 AM

悲しみの花、喜びの花、怒りの花、楽しみの花
満開の花畑には、貴方の感情に合わせて咲かす花がある。
私は今自分がどの色の花と同調しているのか、気になってその花畑に足を運んだ。
すると、そっと目立たないところに咲き綻ぶ花々があった。
真っ白な無垢の花だ。その花をみて驚いた。
私は悲しみの花を頭の中で想像していたからだ。
この花は、始まりの花…何もない感情でもあるけど全てでもある感情の花だ。
言いようのない自分の気持ちの具現化を目の前にして私は立ち尽くした。
明日を憂うことをやめようかな。
目の前から先は真っ白なのだとこの花が伝えている気がするからだ。
私は花畑を後にした。
私の後を追うように、花々に止まっていた虫達が動き出す。
しまいには虫が私を追い越して去っていった。あぁ、虫もこの花畑で自分を見つめ直したのかな、なんて思ったら心が軽くなった。
今度は私が虫達を追いかけて足早に地面を踏み込んだ。

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