towa_noburu

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「貴方、自分が何をしたかわかってるの?」
お母さんの険しい形相に何事かと思い、僕は振り返る。
「獲物を逃したんだよ。あんなに貴方の側にいたのに。なんてもったいない事したのさ。1週間ぶりの食事だったのに。」
他の兄弟たちも後ろで唸って威嚇した。
僕は耳を下げ、尻尾を巻いて怯えながら後ずさった。
「だって…あの子は僕に優しかった。素敵なお花の咲く場所を教えてくれたんだ。」
そうだ。あの真っ白でふわふわのうさぎは僕を見ても怖がるそぶりをせずに、笑って「あなたいつも丘でお花を見てる狼の子供でしょ?」と話しかけてくれた。
そんな動物に出会ったのは生まれて初めてだった。だから嬉しくてついお腹の鳴る音を誤魔化した。それだけだ。
「それはいけない事なの?」
僕はお母さんに涙ながらに問う。
「いけません。」
お母さんはきっぱりと言った。
「いつか、あんたが傷つかないように。お互いに歩み寄らない方がいいこともある。
私はあんたより長く生きてるからね。」
お母さんは僕を優しく舐めた。
僕はお母さんの言った意味がわからなかった。
お腹の音と心が温かくなったあのうさぎとの会話。
どちらか一つしか選べないのだろうか。
僕は欲張りだから両方魅力的に思えた。
真夜中星降る夜、僕は夜空を見上げて母さんの言葉を思い出す。
「生あるもの何か食べないと生きていけない。そして、その食べる物には必ず命が宿っているのを忘れて噛んではいけない。」

後日、お母さんはある子うさぎを噛み砕いた。
僕は怖くて、あのウサギかどうか確認するのが怖くて、その光景から目を背けた。
なんて弱くてちっぽけなんだろう。
小さな優しさを心の中で大切に思うことすら、こんなにも難しいなんて。
それでも僕は泣きながら、母に背中を押されて兄弟達と同じように、命をいただいた。

側で綺麗な黄色い花が凛と咲いていた。
とても美しく儚い命が今日も根を張っていた。

6/26/2025, 4:07:50 AM