towa_noburu

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貴方の喪失は、自分の半身が引き裂かれるような痛みを覚えた。よく、心の中で生き続けると言うが、私はそうは思わない。私の心は貴方の喪失と共に粉々に砕けてしまったのだ。この地上で今呼吸を繰り返す残された体は、もう動くのが限界に近い錆びついた機械のよう。錆をさす油がないから、動かすたびにギシギシ軋む。目は虚。混濁した眼差しの奥にもう光を宿すことはないのだろう。
私の体が機械になってから3653日目の事だ。
いつものように、私は栄養ドリンクとサプリをなんとか喉に流し込み、仕事に出かける。
工場での流れ作業で機械の部品を淡々と点検する仕事だ。夜になり帰宅しようといつもの道を歩く…はずだった。金縛りにあったかのように、体がいつもの道とは違う小道に入った。私は体の故障かと疑った。ついに機械となった体もおかしくなったのかと。
その小道の先を何物かの力に引っ張られるように歩みを進めた。
あるダンボールの前で体は止まった。
「……?」
そのダンボールを覗き込むと、小さな白猫がミャアミャアと鳴いていた。
その猫を凝視しながら、遠い記憶の中で埋もれていた貴方の声がはっきりした。
「私の言葉覚えてる?この子と暮らさない?」
残念ながら、貴方が過去に言った言葉はもう辛すぎて思い出すと痛みが生まれる。
それでも、体はその子猫を優しく抱き上げた。
機械の体の日常に猫が加わった。
ただ、それだけの違いなのに。
冷えた心臓が少しだけ温かくなった。
それは錯覚かもしれない。
けれど、私を見上げる猫の曇りのないガラスの瞳は、全てを見通して今日もニャアニャアご飯をねだる。

6/23/2025, 9:50:44 AM