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6/19/2024, 2:41:28 PM

紫陽花に傘を傾けて、そっと花を食んだ。

〈相合傘〉


雨の日。
ぱらぱらと傘に当たる雨の音を聞き流しながら、
学校に行く道とは反対を歩いていく。
雨の日は少し投げやりで、少し落ち着く。
今日はそんな気持ちに従うまま
普段通らない道を、普段通らない時間に歩く。
今は化学の授業をしている頃だろうか。
近くを通る用水路の水は濁っていた。
雨で歩いている人もほとんど居ないから
訝しまれるような視線もない。
私だけがこの世界にいるみたい。
そうだったらよかったのかな。

暫く歩いていると雨が大粒になってきた。
ぼたぼた、ばらばらと傘に当たる。
嬉しいことに風は無い。
雨のカーテンに包まれるよう。
もう用水路の水は溢れそうだった。
水が溢れて、そのまま自分を何処かに
連れて行ってくれないかな、なんて。

水が流れているところをぼーっと見ていたら
ふと視界に青色が映る。
目線を向けてみるとそれは紫陽花だった。
近寄って傘を紫陽花に傾け、しゃがんで見る。
それは青い紫陽花だった。
死体でも埋まっているのかと思うくらい
青い、青い、紫陽花だった。
地面を一瞥してみたけど。

埋まっているのだろうか。

顔を寄せて紫陽花をじっと見てみるけれど、
認識出来たのはただ青いということだけだった。
水滴が紫陽花を飾っている。
きらきら、きらきらと。
そういえば、
紫陽花には毒があるのを思い出した。

青い花をもいで、食む。

美味しくない。

これで私は死んでしまうのだろうか。
こんな少しで死んでしまうわけないって
思うけれど、その反面、もしを期待してる私もいる。

死にたいわけじゃないから、一花しか食まない。
なにか変化を期待するから、一花食んだ。

暫く紫陽花を見て、立ち上がってまた歩き出す。
雨は弱まって、ぱらぱらと傘に当たる。
すこし透明な気持ちで、まだ止みそうにない
雨の中を歩いていく。

11/2/2023, 1:36:36 PM

受け入れたのは、夜か自分か

〈眠りにつく前に〉


今日は微妙な日だった。最高に微妙な日。
特に何かこれといったことがあった訳じゃない。
むしろ、いつも通りの普通の日だった。

微妙なのは僕の気分。
機嫌が悪いわけじゃない。けど、良いわけでもない。



見る世界がただ。
フィルターがかかってるみたいで。



こういう時は、ただその状況に身を任すしかない。
そう思ってなんとか1日過ごした。けど。
こういう時に限って目が覚めて、
その1日が終われない。

目をつぶって寝転んでいたら、いつか寝れるのは、
分かる。
でも、どれくらいの時間がかかるかも分からないのに
ずっとそうするのは嫌だった。
だからベットから出て、外の景色を見ることにした。

この時期の夜は好きだ。

息を深く吸えば、冷たく澄んだ空気が
自分の心も冷ましてくれるようで。

夜空に瞬く星たちは、自分の心に
煌めきを与えてくれるようで。



こうして数十分、夜空を見て。

眠くは無いけど、横にならないとなとぼんやり思う。
自分がどうであれ明日は来るし、したくなくても
しないといけないものはある。

そうして、まだ自分の体温が残るベットに潜り込む。

いい意味で落ちこんだ気分のまま、
ただ暗闇に身を任せた。

8/31/2023, 11:58:01 AM

けっきょくいっぱいしあわせ!

〈不完全な僕〉


ぼくのまわりには、完全な人ばっかり。
ほかのひとはぜんぜん完全じゃないって言うかも
だけど。
それでも、ぼくよりは完全なんだよねぇ。

ある人は他の人に「声が大きすぎてうるさい!!」
ってよく言われてるけど。
それでもその人は声が大きいのを活かしていっぱい
指示とかしてくれるから、ぼくもたすかってるん
だよねぇ。
まあ、確かにうるさいけど。

ある人は他の人に「早口すぎ!!」ってよく言われてるけど。
でもそれって、それだけ頭のかいてんも早いってことでしょ?
よくぼーっとしゃうぼくには出来ないことかもなぁ。
半分ぐらい聞き取れなくてもう1回聞いてるけど。

ある人は他の人に「気分屋すぎ!!」なんて。
でもそれもやっぱり、ちゃんとやる気を持って色んなことに取り組んでるんだと思うんだよね。
その気分によく振り回されてるのはぼくもだけど。


ぼくは確かにほかのひとよりできないことがあるかもだけど。
でもそれはほかのひとも一緒かもね。
まあそのぶん、それぞれみんなほかのひとよりできることもあるからねぇ。

なんだっけ、隣の芝は青い?みたいな。
ぼくは完全じゃないってぼくは思ってても。
ほかのひとにはぼくみたいに完全にみえてるかも!
だよねぇ〜。

ひさしぶりになんだか難しいことを考えちゃった。
まあぼくはおいしいごはんが食べれて、いっぱいねれたらしあわせ!
ぼくが完全でも完全じゃなくても、
ごはんはおいしいしねれるからねぇ〜。

8/12/2023, 12:45:36 PM


君の奏でる音楽は、
いつも柔らかくて、優しくて、悲しい。

<君の奏でる音楽 >


本人は全然そんなつもりなさそうだったけど。
君はいつも、何かを抱えていた。ずっと悩んでいた。



中学校の時。
なんでみんなみたいに上達しないのかって。
本当にコンクールに出るのかって。

みんなと一緒に出ていいのかって。

だから支部大会で、
金賞を取れた時は泣いていたよね。

「自分も出てよかったんだ。
 ちゃんと上手くなってたんだ。
 みんなの足を引っ張って無かったんだ。」
って。


高校生の時。
吹奏楽部に入ってよかったのかなって。
本当に私が最初のソロを吹いていいのかって。

こんな気持ちで出ていいのかなって。

だから県大会で、
銀賞を取った時は嬉しくも、もやもやしていたよね。

「自分のソロの批評を沢山して貰えた機会だった。
 もっと頑張れたはずだった。

 本当に吹奏楽部に入るべきだったのか。」
って。


結局君は部活を辞めたけど。
別にそれは悪いことだったとは思わないよ。
むしろ凄くいい決断だったんじゃないかな、なんて。
君はそれに後悔していないし、むしろ満足している
だろうし、ね。


君は今でもたまに、楽器を吹くけれど。
君はその度に楽しそうで、嬉しそうで、
悲しそうだけど。
君は今でも、何かを抱えているし、悩んでいるけど。

ひとつの決断をして、ひとつの大きな経験を経て、
君はつよくなっているから。



君の奏でる音楽は、
柔らかくて、優しくて、ほんのちょっぴり、悲しい。