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紫陽花に傘を傾けて、そっと花を食んだ。

〈相合傘〉


雨の日。
ぱらぱらと傘に当たる雨の音を聞き流しながら、
学校に行く道とは反対を歩いていく。
雨の日は少し投げやりで、少し落ち着く。
今日はそんな気持ちに従うまま
普段通らない道を、普段通らない時間に歩く。
今は化学の授業をしている頃だろうか。
近くを通る用水路の水は濁っていた。
雨で歩いている人もほとんど居ないから
訝しまれるような視線もない。
私だけがこの世界にいるみたい。
そうだったらよかったのかな。

暫く歩いていると雨が大粒になってきた。
ぼたぼた、ばらばらと傘に当たる。
嬉しいことに風は無い。
雨のカーテンに包まれるよう。
もう用水路の水は溢れそうだった。
水が溢れて、そのまま自分を何処かに
連れて行ってくれないかな、なんて。

水が流れているところをぼーっと見ていたら
ふと視界に青色が映る。
目線を向けてみるとそれは紫陽花だった。
近寄って傘を紫陽花に傾け、しゃがんで見る。
それは青い紫陽花だった。
死体でも埋まっているのかと思うくらい
青い、青い、紫陽花だった。
地面を一瞥してみたけど。

埋まっているのだろうか。

顔を寄せて紫陽花をじっと見てみるけれど、
認識出来たのはただ青いということだけだった。
水滴が紫陽花を飾っている。
きらきら、きらきらと。
そういえば、
紫陽花には毒があるのを思い出した。

青い花をもいで、食む。

美味しくない。

これで私は死んでしまうのだろうか。
こんな少しで死んでしまうわけないって
思うけれど、その反面、もしを期待してる私もいる。

死にたいわけじゃないから、一花しか食まない。
なにか変化を期待するから、一花食んだ。

暫く紫陽花を見て、立ち上がってまた歩き出す。
雨は弱まって、ぱらぱらと傘に当たる。
すこし透明な気持ちで、まだ止みそうにない
雨の中を歩いていく。

6/19/2024, 2:41:28 PM