森川俊也

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11/7/2024, 9:09:33 AM

俺は昔から、異質だった。
周りがはしゃいでいる中ずっと1人だった。
遊びたくないわけじゃない。
むしろ、遊びたかった。
それをさせなかったのは俺の異質さだ。
周りの人間が
「今日さ、私のお母さんがね。」
「へぇそうなんだ。私のところはね。」
なんて話しているのを聞いているとムカムカして仕方がない。
なにせ、それのせいで俺は異質なのだから。
世間は個性を尊重しろという。 ならば『俺』も尊重されてもいいのではないだろうか?
周りは『私』しかいない。
それでも、その中に『俺』がいて何が悪い。
ずっとずっと考えてきていた。
俺は本当におかしいのだろうか。
向かう先には雨が降っていた。

やがて、俺は別のところへ行った。
そこには『私』もいた。けれど、『僕』もいたし、『あたし』もいた。残念ながら『俺』を見つけることはできなかっただけれど、それでも、ここでは『俺』は否定されなかった。
未だに俺には分からない。
どちらが正しいのか。
前の『私』達も、自分たちとは違うという恐怖から逃れるために『俺』を嫌がったに違いない。
そういった人間としての本能的なものを持たない今の住民たち。
どちら等というのはないのかもしれない。いや、ないのだろう。
それでも、俺は考えることをやめられない。
向かう先の雨は柔らかい雨になっていた。

11/5/2024, 10:15:13 AM

私の世界は光に溢れていた。
友達も多くて、勉強だって運動だって人並みには出来た。
カースト上位とは言わずとも、それなりに充実した生活を送っていた。あの時までは。
あの日、いじめを受けている子を助けただけだった。
偽善者ぶるのでなく、諭すのでもなく、先生に言っただけ。
それがどうやら気に食わなかったらしい。
次の日、いじめのターゲットは私になっていた。
友達は離れずに一緒にいてくれた。
でも、その友達もいじめのターゲットとして、見せしめにされたのをきっかけに、どんどん友達は居なくなっていった。
勉強も運動も人並みにできる。それでも、友達のいない孤独はどれだけ辛かったか。
誰にも相手にされずに、友達という希望すら失った私には逃げ道など一つしかない。
一筋の希望という名の光。
これは、悪いことでも何でもない。
ただ、自分による自分のための救済だ。
そう言い聞かせて夜の世界に旅立った。

11/4/2024, 12:11:37 PM

喧嘩した翌日。
意地っ張りな君は何も言わずに家を出ていった。
引くに引けなくなった僕も何も言わなかった。
それでも、仕事をしているときも君のことばかりを考えていた。
先に帰ってきていた君は案の定何も言わずに、いつもしている挨拶すらせずに寝室に入っていた。
僕は扉越しに声掛けようか迷い、喉まで出かかったところでやめた。
次の日も、その次の日もずっとそんなことが続いた。
やがて君の背はどんどん小さくなった。
僕もどんどん元気がなくなっていった。
久々に僕が君より早く帰った日。僕は君を玄関で待っていた。
君は帰ってくると少し驚いた顔をして、その後すぐに立ち去ろうとした。
僕は、少し迷って、君を抱きしめた。
「何すんの!」
君の声を久々に聞いた。
前までは嫌だった怒った声も今となればすごく嬉しかった。
「この間はごめん。言い過ぎた。」
僕がそう謝ると、君も
「こっちこそごめんなさい。それに、ずっと意地張ってた。」
そう、謝ってくれた。
その後、仲直りをした僕らは空いてた空白を埋めるようにずっと話していた。

11/4/2024, 8:52:35 AM

「今日も優奈ちゃんは可愛いねぇ。」
「優奈ちゃんは優しいねぇ。」
「優奈ちゃんは本当に偉いなぁ。」
そうでしょ?私、偉いし、優しいし、可愛いでしょ?
だって、お母さんがそういったもの。
可愛くて優しい子になりますように。そんな思いを込めて優奈なんだって。そう、言っていたもの。
だからね、私、優しくて偉い子になるの。
困っている人には手を差し伸べて、いつでも笑顔で。
勉強は常に学年1位をキープする。
可愛さだって、手を抜かずに毎日努力してる。
ねぇ、お母さん。私、お母さんの望むような子になれた?
鏡の中の私は、少し淋しげないつも通りの笑顔だった。

11/2/2024, 10:17:30 AM

大好きな貴方へ
今は何をしていますか?
私は貴方のことを考えています。
貴方も私の事を考えていてくれていると嬉しいです。
貴方はよく眠る前にクラシックを聴いていましたよね。
クラシックに触れたことがない私がハマったきっかけは貴方でした。
私は貴方にとっての何かのきっかけになれましたか?
なれていたのなら、そうなら、それはすごく嬉しいことです。
ここまで書いたものの、あんまり性に合いませんね。
やっぱり私らしく書くことにします。
貴方はいつも、楽しそうに過ごしていましたよね。
私は貴方が同僚や友達と楽しそうに話している姿や、そんな話を貴方の口から聞くのが好きでした。
少し耳に残るような貴方の高い声を聞くと、胸が高鳴って話に集中できないことも多々ありました。
ごめんなさいね。
私にとって貴方はすごく特別な人。
だから、貴方にとっての特別な人に私もなりたかった。
こんな事書いたら貴方はそんなことないよ。君は俺にとって特別なんだよ。と、そう言うでしょうね。
その優しさが私は好きです。
もう少しだけそばにいられたのなら、もう少しだけ一緒にいれたら、何か変わったのかもしれません。
でも、もうきっとそれは無理なのでしょう。
貴方はとっくに知っているのでしょう?
私はもう長くない。
貴方が病院に毎日お見舞いに来てくれて嬉しかった。
約束していた指輪。買いに行けなくてごめんなさい。
今まで沢山のわがままを言ってきましたよね。
毎回叶えてくれてありがとう。
そんな私の最後のわがまま叶えてくれますか?
私が眠りにつく前に、貴方の顔が見たいです。


俺への手紙はそこで終わっていた。
紙に、彼女が愛用していた万年筆のインクが滲んだ。
ごめんよ。君が眠ったあとに来てしまった。わがまま叶えてやれなくてごめん。
嗚咽と共にそんな言葉だけが心の中に木霊した。
指輪。買ってきたんだ。
そっと冷たくなった薬指にはめたそれは、俺の心とは裏腹に綺麗に輝いていた。

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