子供のままで 咲希瑞
ミントブルーの空の下、瑞希と咲希は手をつなぎ、ぶらぶらと家路を歩いていた。
「あーあ。ずーっとこのままがいいなぁ」
咲希が空に向かって呟く。
「急にどうしたの?」
「大人になりたくないな〜って」
瑞希が問うと、咲希は眉を八の字にし再び空を見上げる。
「だって大人になったらさぁ、お互い忙しくなるじゃん。だから瑞希ちゃんと過ごすこ と、少なくなっちゃうよ」
成る程、そういうことか。
いや、でも⋯
「ボクたち、もう少しで結婚できるんだよ?だから毎日会えるんじゃないの?」
そこまで瑞希は言い、「家で」と付け足した。
しかし、咲希からは何も返答が来なかった。
瑞希は不思議に思い、自身の右に目をやった。
「さ、咲希ちゃん?」
「い、今こっち見ないで!?!?」
「え!?」
瑞希の目に見えたのは、顔を両腕で覆い、顔から火が出そうなほどに顔を赤くして、恥ずかしがる咲希の姿だった。
「ど、どうしたの?」
「いやいや、瑞希ちゃん!今、自分がすっごい恥ずかしいこと言ったの気がついてないの!?」
「え、そ、そんな恥ずかしいの⋯?」
「恥ずかしいよ!!」
咲希はそんなに恥ずかしいのか、道端にしゃがみ込んでしまった。
これ、漫画とかアニメとかだったらツインテール飛び上がってるよ⋯と瑞希は思う。
しかし、恥ずかしがる咲希は可愛いもので、瑞希は少し意地が悪いことを聞いてしまう。
「じゃあ咲希ちゃんは、結婚しないの?ずっと子供のままが良い?」
「うっ⋯し⋯したいけど⋯」
「はい決まりね!」
「ちょっとぉ!?」
瑞希はさらに恥ずかしがる咲希の手を取り、自身と咲希の家に向かって走る。
(うーん。やっぱりもう少し子供でもいいかな)
瑞希は振り向きざまに咲希をチラッと見つめる。
(この帰るときが楽しいからね♪)
瑞希は前を向き、ふふっと笑みを漏らした。
忘れられない、いつまでも。 天馬兄妹 司・咲希
「咲希!誕生日おめでとう!!」
すっごく家中に響く声で、そう言ってくれたあとに、大きな花束をくれた。
「わぁ〜!ありがとうお兄ちゃん!」
嬉しくって、アタシも大きな声でお礼を返した。
そう、今日はアタシの誕生日なのです!高2になったばかりだけど、クラスのお友達は、誕生日プレゼントをくれて、祝ってくれた。
もちろん、幼馴染でバンド仲間のいっちゃんたちも、誕生日会してくれたんだ!
それで、今はお兄ちゃんからもお祝いしてもらっている最中。
「ふっふっふ、これだけではないぞ!誕生日ケーキもあるし、オレからのショーもあるか らな!」
お兄ちゃんは胸をドンと叩く。
そして、アタシは昔のことがふっとよみがえる。
アタシが入院していたとき、お兄ちゃんは毎日お見舞いに来てくれていた。そして、アタシが笑顔になれるように、ショーもしてくれた。
あの頃は、「どうしていっちゃんたちと、お母さんたちと一緒に居られないんだろう」って思うばかりで――寂しくて悲しい気持ちでいっぱいだった。
その中でも笑顔になれたのは⋯⋯お兄ちゃんがアタシを笑顔にしてくれて。楽しませてくれて。アタシのお星さまになってくれて。
それに⋯今日みたいに誕生日だったら祝ってくれて。
アタシを――照らしてくれたんだ。
「どうしたんだ?ぼーっとして」
はっとして見上げてみると、お兄ちゃんが心配そうにアタシの顔を覗き込んでいた。
アタシは、お兄ちゃんを安心させるように笑いながら首をふった。
「ううん!大丈夫だよ!それと⋯」
アタシは、お兄ちゃんの目をしっかり見つめた。
そして、満面の笑顔を見せ、
「お兄ちゃん、本当にありがとう!」
そう、言った。
お兄ちゃん、本当にありがとう。
忘れられない。忘れられないよ。いつまでも。
一年前 暁山瑞希
あの出来事から、一年経ったな。
正直今、こうやって当たり前の生活が、楽しい生活ができていることに、驚いてる。
もしもあのとき、あのままだったら?
あの気持に全てを飲み込まれていて――
⋯⋯あまり考えたくないや
もしもあのままだったら、今のボクは存在していなかったな。
でも⋯でもね。
救ってくれたんだ。
あんな状態のボクを。
何回感謝すればいいんだろうね。
君が――救ってくれたから。
ボクも――君をもしものとき、救えたらいいなぁ
大丈夫だよ。
一年後も。
その先も。
きっと。必ず。
ボクは息をしているよ。
明日世界が終わるなら⋯⋯ 咲希瑞
明日世界が終わるなら?と問うたら、多くの人は「1日を満喫する」「好きな人と最後までいる」などと答えることだろう。
アタシも大切な人に聞いてみたんだ
「明日世界が終わるなら?」
淡い桜色のサイドテールの頭が、斜めに傾く。
咲希の大切な人――瑞希は「うーん」と人差し指を口元にあてながら、考え込んだ。
そして、
「それじゃあ、咲希ちゃんはどうしたいの?」
と逆に質問を投げかけてきた。
「えっと、アタシはいっちゃんたちと、お兄ちゃんと、それから瑞希ちゃんと一緒にいたいっておもう!」
咲希は、いつもと変わらず、飾らない笑顔で答える。
本当に⋯世界が終わるというのに、眩しい笑顔だ。
「そっか⋯」
瑞希は、少しの間考えると、こう口にした。
「ボクは⋯ボクのままでいる、かな」
「⋯え?」
思いがけないことを耳にした咲希は、少し驚く。
瑞希は、咲希ではなくて、外の世界を見つめていた。
空は雲一つない、ミントグリーン色だった。
「せっかくボクが自信を持てた、この世界に⋯恩返し?みたいなのをしたくてさあ」
瑞希はそこまで言うと、「いや、サークルのみんなにもだけどねもちろん」と付け加える。
「ボクはこんなになったんだよ。みんなのおかげでこんなに変われたよってね」
咲希は言葉が出てこなくなり、ただ、瑞希を見つめる。
瑞希は、視線を外の世界から、咲希に移すと、しっかりと言う。
「だから⋯その時には、咲希ちゃん。君が居てくれるかな?」
咲希は、瑞希を改めて見つめる。
瑞希は、柔らかく、穏やかな笑みをうかべていた。
「もちろんだよ」
咲希は、瑞希――大切な恋人の手をしっかりと握った。
君と出逢って 瑞絵名
ありがとう
君に出逢えたから、今のボクが存在するとおもう
少し面倒くさくて、ワガママなところもあったけれど。
それでも、ホントはツンデレで。誰よりも優しく、ボクを照らしてくれた君。
もし、出逢えていなければ?
あのとき――あの言葉を掛けてくれていなかったら?あの行動をしてくれなかったら?
ボクはその時まで、怖くて言えなかった。「これから」が変わってしまう気がして。
君と――君たちと、会えなくなったら?と思ってしまって。
それでも君は、「待ってる」と揺らぎなのない、想いをぶつけてくれて。
あのとき、あんなボクを救ってくれて。
だからね、これからもボクらしく生きようとおもう。
君のおかげで。変われた。変われたよ。
ボクは救われたよ。
ありがとう
今度はボクの番だよ。なんてね。