真夏の記憶
夏休み。
40日間の休日。部活も習い事もしてない私は、何か思い出ができる訳でもないし、これといって記憶に残る出来事もない。
翌年になれば夏休みのことなんて何も覚えてない。
ただ、この嫌になるほどの肌に張り付くような暑さだけは毎年忘れられない。
またね
俺と君が帰り道別れる時の挨拶。
『またね』。
またね、という言葉に君がどういう言葉を込めているかはわからない。
「また会おうね」「また明日ね」 、他にもあるだろうが自分には考えつかない。
どちらにせよ、「またね」という言葉はもう一度会うことを約束したとも言えるだろう。
毎日のように『またね』と言い合っていたある日、
君が「ばいばい」と初めて言った。
少し驚いたが、そんなこともあるか、と同じようにばいばい、と返した。
いつもは何回も振り返っては手を振り続ける君だったが、今日は振り返ることなく夕日の中を歩いていった。
その背中は、いつもよりも小さく見えた。
次の日から、君は学校に来なくなった。
体調でも崩したかと思ってラインをしたが、既読はつかなかった。
次の日も、また次の日も君の顔を見る日は来なかった。
「先生、あいつなんで来てないんですか?」
ふと聞いてみた。
「…理由を説明するから、放課後残ってくれるか」
「え?はい」
先生はどこか悔しげで複雑な表情を浮かべてそう言った。
放課後、教室で残っていると、先生が入ってきた。
「あのな、…あいつは、」
「…自殺したんだ。」
「…え、?何言って…」
「……嘘だろ…?嘘って言ってくださいよ、先生。」
「…本当なんだ、遺書には…こう書いてあった。」
先生から伝えられた内容は、まず君が虐められていたこと。それから、いじめが原因で自殺したこと。
そして…俺のことが好きだったこと。
「なんだよ、それ…」
いつの間にか目には涙が滲んでいた。
俺も君のことこの上ないほどが好きだった。なのに、君の笑顔が消えたことにも、虐められていたことにも気付けなかった。
ぬるい炭酸と無口な君
僕はあるカフェの店員だ。近くには大学があるが、近くに人気チェーン店のカフェがあるからか、大学生の客は少ない。
逆に楽だからいいかな、も思う。
珍しく若い女性の客が入ってきた。おそらく大学生だろう。
「…ピーチソーダ1つ。」
「はい!かしこまりました!サイズは如何なさいますか?」
「…Lで」
ここに来るのはおしゃべりな老人ばかりだったからか、少し静かな人には慣れない。
女性客にピーチソーダを渡すと、無口で受け取り席に座ってパソコンを開いた。
2時間ほど居座ると、一息ついた様子で帰っていった。
それから、女性客は毎週店に来るようになった。!
頼むのはいつもピーチソーダ。
相変わらず無口なまま数週間が過ぎていった。
何週間か経ったある日、また女性客はピーチサイダーを頼むかと思いきや、今回は珍しくアップルソーダを頼んだ。少し驚いたが、まぁそんな事もあるかと飲み物を作っていた。
「こちらご注文のアップルソーダです。ごゆっくりどうぞ」
お客さんが来ないので店の仕事を済ませていたら、女性客に声をかけられた。
「すみません、これ氷入ってなくないですか。ぬるいんですけど」
「…え!?申し訳ありません!今すぐ作り直します!」
しまった。女性客がいつもと違うのを頼んだことに驚いて気を取られていた。
「…あと、お兄さん。」
「…はい?」
「ハンカチ、落としてますよ」
そういってハンカチを渡す不意な君の笑顔に、僕は心を打ち抜かれた。
熱い鼓動
「あっつ〜、暑すぎてとけそー」
浴衣を着た君がもうぬるくなったであろうチョコバナナを片手にそう言う。
「お前なんかいつも溶けてるようなもんだろ」
「はー?黙れし!笑」
幼稚園の頃、隣に引っ越してきた君と母親に連れられ一緒に夏祭りに行った時から、俺らは毎年近所の夏祭りに行く。
何年もほぼ毎日顔を見ているもんだから、あいつに特に可愛いだとかそういう感情を持つことは無いが、顔は整っているので浴衣を着て頭からつま先までちゃんとした格好をしているのを見ると可愛いとは思う。
「今年は特に人が多いな」
「そうだね〜やっぱここの花火はすごいからなぁ」
「あ、そろそろ花火の時間じゃん!場所取りしないと」
「おう」
人が多くてはぐれそうになりつつも花火がよく見える場所に行く。
去年までは穴場だったのに今年はもう少ししか空いていない。
「去年とは比べ物にならない人だかりだな…」
「あそこの小さいところしか空いてないじゃん!」
「まーしょうがないな、そこ座ろ」
去年は割と大きいスペースを確保できていたが、今年は小さなスペースしか取れなかった。
少し手を広げれば君と手が重なり合ってしまいそうで、何も思わないはずなのに少しドキドキしてしまう。
「あっ、花火始まった!」
「写真撮ろ!」
毎年毎年来ているのになぜ写真を撮るのか分からないが、昔と変わらない眼差しで花火を見る君を見ると少し安心するところもある。
「んー、もうちょいこっちかな…」
「…。」
君は写真を撮る事に夢中で気づいていなかったが、気付けばもうお互いが横を向けば唇が触れる距離にいた。
花火はドンドンと音を立てながら広がっていく。
暑さのせいか、君のせいか、俺の心臓は熱い鼓動が鳴っていた。
虹の始まりを探して
僕は君の幼馴染でありながら、君に恋をしてしまった。前までなんとも思わなかったその笑顔も、いつしか意識してしまうようになってしまって、僕は少しだけ君にアピールをした。そんな事をしていたらいつの間にか1年が経ち、僕らの関係は変わらないまま。
ある休日、君に呼び出された。
そんなことは無いと思いつつも少し告白を期待する。いつもよりも少し格好をキメて、君に会いに行く。
いつもと変わらない君の口から出た言葉は思いがけもしなかった言葉だった。
「虹の始まりを探しに行こう」
馬鹿らしい、とは思ったが、そんな所も君らしくて好きだ、なんて心の中で思う。
君が言うには、虹の始まりを見つければ願い事がひとつ叶うとのこと。
「願い事ってなんなんだ?」
「んー、好きな人と結ばれたい!かな!」
「す、好きな人なんかいたのか。お前らしくない。」
好きな人がいたのか…。
…もう、叶わないじゃないか。
好きな人に想い人がいたことにテンションが落ち込むが、君と「虹の始まり」を探しに行く。
数時間探しても見つからない。
見つかるわけが無いとは思っていた。でも、君といる時間を増やしたくて口出しすることなく付き合った。
「んー、見つかんないな…」
「いつのまにかもう虹が出てる時間じゃないな。」
「うーん、願い事は自分で叶えろってことかな?」
「神様も優しくないな〜!」
何事もポジティブに終わらす、君のそんなところが好きだなぁ、なんて考えながら君の横顔を眺める。
君は少し黙りこくったあとこう言った。
「じゃあ、叶えるね。」
「私と付き合ってください。」
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お久しぶりです🙏💦長らく更新できてなくてすみません🥲
今回は長めに書いてみました。