凍える朝
この時期の朝は嫌いだ。
寒いし、何より布団から出たく無くなる。
朝、外に出て凍えきった手を自らの息で暖めようとするけど、その息すらも白くて。
「ああ、またこの季節か。」
と少し朝から嫌気もさす。
夏よりはマシだろうか?なんて思うけれど、やっぱり凍えた朝は嫌いだ。
そんな朝が好きになったのは、君のおかげだろうか。
君と出会って、君と想い合うようになって。
君と朝の間手を繋ぎ、お互いの片手を温め合うことが出来る。
凍える朝限定の特権。
どこまでも (長めです)
「2人なら、どこまでもいける。」
口には出さなかった。けれど、きっと私もハルカも同じことを思っていた。
ハルカは、私の小学2年生からの親友。
クラスが離れても、喧嘩しても、辛いことがあっても、気づけば2人一緒にいた。そして、一緒にいればそんなこと屁でもなかったかのようにいつの間にか忘れていた。
ハルカといれば、何も怖くない気がした。
なんでも出来る気がしたし、失敗なんか存在しない、そう思っていた。
ある時、ハルカは1週間学校を休んだ。
連絡も帰ってこないし、先生に聞いても何も答えてくれない。私は微かな疑問と寂しさを抱えてその1週間を過ごした。
翌週、ハルカは学校に来た。
「ハルカ!ちょっと、連絡くらいかえして...」
私がいつもの調子で喋りかけるも、ハルカの見た事の無いような暗い顔を見てなにか異常を察する。
「...ハルカ?」
ほんの少しだけ沈黙が続き、やっとハルカが口を開く。
「...ごめん、リナ。縁を切ろう」
「...え?」
急な絶縁宣言に頭が真っ白になる。
なぜ?どうして?1週間前は普通に仲良くしていたのに。原因を探っても探っても出てこない。
頭の中を精一杯整理し、私はやっとの思いで声をひねり出す。
「なんで...?」
目頭は熱かった。
視界も滲んでいた。
視界がはっきりしてきたころにはもうハルカの背中は小さくなっていた。
それから何年か経ち、私はまだ疑問と悲しみを抱えて生きていた。連絡先は消されたし、親御さんには連絡手段がなかった。
私はもう大学生だ。一人暮らしもしている。
ある時、母親から実家に帰ってくるよう言われ、実家に行くと母親が神妙な顔をして話を切り出す。
「...リナ、言ってなくてごめんね。実はあの時...」
あの時、というのはどの時かもうわかっていた。
やはり、親友を失ったあの日だった。
母親の話は、それはそれは衝撃的なものだった。
ハルカはあの時指定難病にかかったことを医者から知らされ、私を悲しませないように事情を話さず縁を切ったそう。
ハルカの親から連絡はあったが、ハルカの意向で私には話さなかった、だそう。
私は驚きと共に、喜び、そして悲しみも感じた。
私も母親もハルカのその後を知らない。
ハルカはもしかしたら亡くなってるかもしれない。
でも、どこかで生きているかもしれない。
私は今日もいつまでも、どこまでもハルカを探している。
もしも世界が終わるなら
「もしも明日世界が終わるならどうする?」
人生で一度は聞いたり聞かれたりする質問だろう。
そんな良くありげで無難な質問を「最後の切り札」とでも言いたげに僕に聞く。
といっても、僕らはもう毎日毎日2.3時間は話しているから、話題なんかもう底をついている。
だから君はそんなよくある質問をしたのだろう。
「ちなみに私は〜、…うーん、大切な人と一緒に過ごすかな?」
僕が考えている時間の沈黙を埋めるように彼女は自分の意見を言う。
大切な人と過ごす、だとか犯罪を起こす、だとかはよくある意見だ。
だが、僕も彼女と同意見だろう。
だから僕はこういう。
「僕も大切な人と過ごすかな。例えば、君とか。」
真夏の記憶
夏休み。
40日間の休日。部活も習い事もしてない私は、何か思い出ができる訳でもないし、これといって記憶に残る出来事もない。
翌年になれば夏休みのことなんて何も覚えてない。
ただ、この嫌になるほどの肌に張り付くような暑さだけは毎年忘れられない。
またね
俺と君が帰り道別れる時の挨拶。
『またね』。
またね、という言葉に君がどういう言葉を込めているかはわからない。
「また会おうね」「また明日ね」 、他にもあるだろうが自分には考えつかない。
どちらにせよ、「またね」という言葉はもう一度会うことを約束したとも言えるだろう。
毎日のように『またね』と言い合っていたある日、
君が「ばいばい」と初めて言った。
少し驚いたが、そんなこともあるか、と同じようにばいばい、と返した。
いつもは何回も振り返っては手を振り続ける君だったが、今日は振り返ることなく夕日の中を歩いていった。
その背中は、いつもよりも小さく見えた。
次の日から、君は学校に来なくなった。
体調でも崩したかと思ってラインをしたが、既読はつかなかった。
次の日も、また次の日も君の顔を見る日は来なかった。
「先生、あいつなんで来てないんですか?」
ふと聞いてみた。
「…理由を説明するから、放課後残ってくれるか」
「え?はい」
先生はどこか悔しげで複雑な表情を浮かべてそう言った。
放課後、教室で残っていると、先生が入ってきた。
「あのな、…あいつは、」
「…自殺したんだ。」
「…え、?何言って…」
「……嘘だろ…?嘘って言ってくださいよ、先生。」
「…本当なんだ、遺書には…こう書いてあった。」
先生から伝えられた内容は、まず君が虐められていたこと。それから、いじめが原因で自殺したこと。
そして…俺のことが好きだったこと。
「なんだよ、それ…」
いつの間にか目には涙が滲んでいた。
俺も君のことこの上ないほどが好きだった。なのに、君の笑顔が消えたことにも、虐められていたことにも気付けなかった。