閉ざされた日記(長めです)
好きな子の家に遊びに行った。
そりゃあ、もう心臓バックバク。部屋に入った瞬間、その子の香りに包まれたような、そんな感じがした。そんな気持ち悪い感想を抱いた自分に嫌気がさす。
「ジュース入れてくるね!少し待ってて」
そう言って、僕は一人その子の部屋に残された。
しばらく、もうしばらく待っても帰ってこない。
すると、整頓された机の上に1冊の日記帳を見つけた。
…見るべきか?
理性と好奇心が戦うが、人の好奇心とは恐ろしい。最終的な結果は言わずもがな好奇心であった。
ぺらり、と1枚紙をめくる音と自分の心臓の鼓動がやけに耳に届く。
『○月✕日 水曜
今日は好きな人と話せちゃった!嬉しすぎる…。また明日も話せますように!』
可愛らしい文字で書かれたその短文を見た時、世界から音が一瞬消えた。…分かりきっていた、彼女に好きな人がいることも、それが自分でないことも。
涙が出そうだった。彼女の帰ってくる気配はない。
自分の目頭が熱くなるのを感じながらも、紙をめくる手は止まれなかった。
『○月✕日 木曜
今日は話せなかったけど目が合った気がした!でも、最近話しかけてくれないよー…』
次の日記も、その次の日記も、惚気話で溢れていた。相手の詳細は全く書かれていない。だが、それが自分では無いことは察しが着いた。
めくり続け、やがて『明日告白しようかな…!』という短文を見つけると、続きは読まずに日記を閉じた。
涙が一筋頬を伝う。その涙を、袖で強引に拭った後、心が落ち着き始めるとともに、彼女は帰ってきた。
「ただいま〜ごめんね、遅れちゃって…」
「…あのさ、母さんに急いで呼ばれちゃったから帰るね。ごめん」
真っ赤な嘘だ。これ以上、ここに居れる気がしなかった。これ以上ここにいれば、精神が持つ気がしなかった。
「え…?…ぁ、…うん…わかった。じゃあね…!」
ここで彼女に片思いのまましがみつくより、こうして嫌われてしまった方がマシだ。そう思いながら帰路についた。
そして、僕は知らなかった。いや、気づけなかった。
あそこで閉じたあのページが、最新のページであったことも、彼女が僕以外にその日会う約束をしていなかったことも。
…そして、彼女の想い人が僕であることも。
その日、淡くて酸っぱい両片思いの物語は、そこで蓋が閉ざされた。
ずっとこのまま
時々、ずっとこのままで居れればいいな、なんて思う時がある。
大切な人と手を繋いでる時。
大切なものを大切に扱ってる時
大切な人と一緒にいる時
大切に 大切な 大切の
『大切』
…そんな言葉が似合うものが多いだろう。
『ずっとこのままで』なんて思える存在があることは、『ずっとこのままで』なんて思える時間は、
なによりも大切な時間で、『ずっとこのままで』なんて絶対に叶わない願いなのかもしれない。
凍える朝
この時期の朝は嫌いだ。
寒いし、何より布団から出たく無くなる。
朝、外に出て凍えきった手を自らの息で暖めようとするけど、その息すらも白くて。
「ああ、またこの季節か。」
と少し朝から嫌気もさす。
夏よりはマシだろうか?なんて思うけれど、やっぱり凍えた朝は嫌いだ。
そんな朝が好きになったのは、君のおかげだろうか。
君と出会って、君と想い合うようになって。
君と朝の間手を繋ぎ、お互いの片手を温め合うことが出来る。
凍える朝限定の特権。
どこまでも (長めです)
「2人なら、どこまでもいける。」
口には出さなかった。けれど、きっと私もハルカも同じことを思っていた。
ハルカは、私の小学2年生からの親友。
クラスが離れても、喧嘩しても、辛いことがあっても、気づけば2人一緒にいた。そして、一緒にいればそんなこと屁でもなかったかのようにいつの間にか忘れていた。
ハルカといれば、何も怖くない気がした。
なんでも出来る気がしたし、失敗なんか存在しない、そう思っていた。
ある時、ハルカは1週間学校を休んだ。
連絡も帰ってこないし、先生に聞いても何も答えてくれない。私は微かな疑問と寂しさを抱えてその1週間を過ごした。
翌週、ハルカは学校に来た。
「ハルカ!ちょっと、連絡くらいかえして...」
私がいつもの調子で喋りかけるも、ハルカの見た事の無いような暗い顔を見てなにか異常を察する。
「...ハルカ?」
ほんの少しだけ沈黙が続き、やっとハルカが口を開く。
「...ごめん、リナ。縁を切ろう」
「...え?」
急な絶縁宣言に頭が真っ白になる。
なぜ?どうして?1週間前は普通に仲良くしていたのに。原因を探っても探っても出てこない。
頭の中を精一杯整理し、私はやっとの思いで声をひねり出す。
「なんで...?」
目頭は熱かった。
視界も滲んでいた。
視界がはっきりしてきたころにはもうハルカの背中は小さくなっていた。
それから何年か経ち、私はまだ疑問と悲しみを抱えて生きていた。連絡先は消されたし、親御さんには連絡手段がなかった。
私はもう大学生だ。一人暮らしもしている。
ある時、母親から実家に帰ってくるよう言われ、実家に行くと母親が神妙な顔をして話を切り出す。
「...リナ、言ってなくてごめんね。実はあの時...」
あの時、というのはどの時かもうわかっていた。
やはり、親友を失ったあの日だった。
母親の話は、それはそれは衝撃的なものだった。
ハルカはあの時指定難病にかかったことを医者から知らされ、私を悲しませないように事情を話さず縁を切ったそう。
ハルカの親から連絡はあったが、ハルカの意向で私には話さなかった、だそう。
私は驚きと共に、喜び、そして悲しみも感じた。
私も母親もハルカのその後を知らない。
ハルカはもしかしたら亡くなってるかもしれない。
でも、どこかで生きているかもしれない。
私は今日もいつまでも、どこまでもハルカを探している。
もしも世界が終わるなら
「もしも明日世界が終わるならどうする?」
人生で一度は聞いたり聞かれたりする質問だろう。
そんな良くありげで無難な質問を「最後の切り札」とでも言いたげに僕に聞く。
といっても、僕らはもう毎日毎日2.3時間は話しているから、話題なんかもう底をついている。
だから君はそんなよくある質問をしたのだろう。
「ちなみに私は〜、…うーん、大切な人と一緒に過ごすかな?」
僕が考えている時間の沈黙を埋めるように彼女は自分の意見を言う。
大切な人と過ごす、だとか犯罪を起こす、だとかはよくある意見だ。
だが、僕も彼女と同意見だろう。
だから僕はこういう。
「僕も大切な人と過ごすかな。例えば、君とか。」