熱い鼓動
「あっつ〜、暑すぎてとけそー」
浴衣を着た君がもうぬるくなったであろうチョコバナナを片手にそう言う。
「お前なんかいつも溶けてるようなもんだろ」
「はー?黙れし!笑」
幼稚園の頃、隣に引っ越してきた君と母親に連れられ一緒に夏祭りに行った時から、俺らは毎年近所の夏祭りに行く。
何年もほぼ毎日顔を見ているもんだから、あいつに特に可愛いだとかそういう感情を持つことは無いが、顔は整っているので浴衣を着て頭からつま先までちゃんとした格好をしているのを見ると可愛いとは思う。
「今年は特に人が多いな」
「そうだね〜やっぱここの花火はすごいからなぁ」
「あ、そろそろ花火の時間じゃん!場所取りしないと」
「おう」
人が多くてはぐれそうになりつつも花火がよく見える場所に行く。
去年までは穴場だったのに今年はもう少ししか空いていない。
「去年とは比べ物にならない人だかりだな…」
「あそこの小さいところしか空いてないじゃん!」
「まーしょうがないな、そこ座ろ」
去年は割と大きいスペースを確保できていたが、今年は小さなスペースしか取れなかった。
少し手を広げれば君と手が重なり合ってしまいそうで、何も思わないはずなのに少しドキドキしてしまう。
「あっ、花火始まった!」
「写真撮ろ!」
毎年毎年来ているのになぜ写真を撮るのか分からないが、昔と変わらない眼差しで花火を見る君を見ると少し安心するところもある。
「んー、もうちょいこっちかな…」
「…。」
君は写真を撮る事に夢中で気づいていなかったが、気付けばもうお互いが横を向けば唇が触れる距離にいた。
花火はドンドンと音を立てながら広がっていく。
暑さのせいか、君のせいか、俺の心臓は熱い鼓動が鳴っていた。
7/30/2025, 12:52:57 PM