桜月夜

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11/7/2024, 4:21:30 AM

   : 柔らかい雨


心がどうしようもなく疲れた時
私はみどりに会いに行く

木立が集うみどりの中
清々しい空気に包まれ
みどりが放つ吐息を
ゆっくりと肺に流し込む

私が私になれる場所…

こわばった体の力が震え
悲しい雫が頬を伝う

無の静寂が誘う手に 
ありのまま身を委ねる

心の中に柔らかい雨が降り注ぐ
ぽつんぽつんと芽生えた苦しみを
優しく拭い去るように…

私は今、ちゃんと生きている
心がちゃんと、息をしている

私が生きている証を
息衝く尊さを
みどりはいつも教えてくれる

柔らかい雨に虹が架かる

私はまた、歩いていける…


                桜月夜

11/6/2024, 4:33:01 AM

   : 一筋の光


さ、財布がない
確かここに入れたはずなのに…

もう一度、鞄の中をかき回す
ポケットの中にもない

どういうこと…、もしかして
慌ててたから落としたのかも…

焦る背中に声がかかる

「あの、これ落としましたよ」

一筋の光が差すとは
まさにこのことだわ

探す手を止め、高まる気持ちを抑え
笑顔を貼り付け振り返る

そこに立っていたのは…

ウェーブの髪がふわりと揺れる女と
警察官の男が一人

私の顔から血の気が引いていく

今にも飛びかかろうとする女を
警察官は片手で静かに制した
私から視線を外すことなく…

冷たく光る目に捕まった時点で
私は逃げることさえ浮かばなかった

「さぁ、話を聞かせてもらおうか」

折角差した希望の光が
瞬く間にチリチリと消えていった


                桜月夜

11/5/2024, 3:58:54 AM

   : 哀愁を誘う


あなたは、ぽつりぽつりと話し始めた

殆ど話すことなどないのに
少しお酒が入ったからだろうか

私は黙って聞いていた

不意に思い詰めるように黙り込み
お酒に色づく氷を見つめる

私も自分のグラスを見つめる

どれくらいたっただろうか
意を決したように言葉を放つ

「1/4にカットされた白菜が…
  1200円もしたのよ…」

驚愕のセリフに私は
首が千切れんばかりの勢いで
彼女を見た

伏し目がちに潤む瞳が
哀愁を誘う

「それに気づいた私は思わず
  伸ばした手を引っ込めてしまった…
    ぅぅぅ…」

わなわなと震える彼女の手が
琥珀に染まるグラスに触れる

カラン…

梅酒に濡れる氷が
行き場をなくしたように彷徨う

彼女の心の中を見ているようで
私は、何も言えなかった…


                桜月夜

11/3/2024, 3:04:15 AM

   : 眠りにつく前に


眠りにつく前に
微かに声が聞こえた

あらあらこの子ったら
大好物のクッキーを持ったまま
眠っちゃったのね

優しく髪を撫でたあと
私の手からクッキーを取ろうと…

はっ、ダメ~、私のクッキー!

なんとか瞼をこじ開け
クッキーを口に運んで
モグ、モグ、モグ…

なんでだろう…
クッキー食べたいのに…
また眠くなってきた…

でも、どうしても食べ…たい…

ふふっ、また眠っちゃったのね
本当に食いしん坊さんなんだから

だいじょうぶよ
ちゃんととっておきますからね

ちょっとくすぐったいその声は
私の手からクッキーをそっと取り
大事そうに抱っこしてくれた

クッキーも好きだけど

私は、この優しい抱っこも

大好きだ


               桜月夜

11/2/2024, 4:47:06 AM

   : 永遠に


永遠に、とは言えないな…

でも、僕が生きている限り
君の傍にいたいと思っている

傍にいて、一緒に笑ったり
美味しいものを食べたり
時には喧嘩したりして
君の全てを愛したい

貴方は最期まで約束を守ってくれた

一緒になって笑ってくれて
一緒になって泣いてくれて
喧嘩をしたらとことん話し合ってくれて

生きている限り…

貴方の好きだった花を手向け
私は墓前に話し掛ける

貴方は生きている限りって言ったわよね

確かにもう、貴方の温もりに
触れることはできない

けど、貴方が旅立ってからも
ずっと感じるの

今でもずっと傍にいてくれてるって…

優しい風が、私の髪を撫でる

私は泣いたりなんかしないから…

柔らかい日射しが、体を包む

ふわりと頬が温かくなった

貴方は今も、私の傍に…


                桜月夜

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