: 哀愁を誘う
あなたは、ぽつりぽつりと話し始めた
殆ど話すことなどないのに
少しお酒が入ったからだろうか
私は黙って聞いていた
不意に思い詰めるように黙り込み
お酒に色づく氷を見つめる
私も自分のグラスを見つめる
どれくらいたっただろうか
意を決したように言葉を放つ
「1/4にカットされた白菜が…
1200円もしたのよ…」
驚愕のセリフに私は
首が千切れんばかりの勢いで
彼女を見た
伏し目がちに潤む瞳が
哀愁を誘う
「それに気づいた私は思わず
伸ばした手を引っ込めてしまった…
ぅぅぅ…」
わなわなと震える彼女の手が
琥珀に染まるグラスに触れる
カラン…
梅酒に濡れる氷が
行き場をなくしたように彷徨う
彼女の心の中を見ているようで
私は、何も言えなかった…
桜月夜
11/5/2024, 3:58:54 AM