架空体

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8/28/2025, 2:42:41 PM

【夏草】
夏の終わり、道端に生い茂る草むらに足を止めた。
汗ばんだ風に揺れる葉は、誰に見られるでもなく青々と伸びている。

毎朝、同じ通学路を歩くのに、今日だけはその存在がやけに目に入った。
受験の不安や人間関係のもつれで胸が重くなると、心は遠くへ逃げてしまう。
けれど、夏草は逃げない。ただそこに、黙って立ち続けている。

強さとは、大声で主張することではないのかもしれない。
何も言わず、ただ生き抜くこと。
その姿に気づいたとき、自分の中の小さな焦りも、ほんの少し和らいだ。

来年の夏、この草はもう枯れているだろう。
けれどその生命を見つめた記憶は、きっと私の中に残る。

――夏草の青さは、儚さを知っているからこそ、まぶしいのだ。

8/26/2025, 12:06:23 PM

【素足のままで】

砂利道を歩くたび、かかとに小さな痛みが走る。靴を忘れてしまったわけじゃない。ただ、今日はどうしても、素足で歩いてみたかった。

アスファルトの熱さ、草の冷たさ、石のざらつき。靴の底越しではわからなかった世界が、じかに足裏へと突き刺さる。少しの痛みと同時に、「ああ、生きているんだ」と確かに感じた。

人から見れば、ただの無防備で無謀な行為にしか映らないだろう。でも、誰かの視線よりも、自分の感覚に忠実でいたかった。守られることに慣れてしまうと、足の裏がどんどん鈍っていく。

血がにじんだっていい。今日だけは、素足のままで歩いていたい。そうしなければ、心のほうが先に固まってしまいそうだから。

足裏の痛みが、私の明日の強さになる。

8/24/2025, 1:19:07 PM

【見知らぬ街】

初めて降りた駅の空気は、少し冷たくて澄んでいた。
地図も持たず、ただ歩いてみる。

商店街の看板は聞いたことのない名前ばかりで、軒先の花の並べ方や、パン屋の甘い匂いまでもが新鮮に感じる。見知らぬ街というだけで、すべてが特別に光って見えるのだ。

やがて、小さな公園に出た。ベンチに座る老人が、こちらに気づいて微笑む。その一瞬、私は「ここに来た意味」を問われた気がした。答えは出ない。ただ、知らない場所で、知らない人に微笑まれることが、不思議と救いになる。

また歩き出す。次に訪れるときには、この街はもう「見知った街」になるだろう。

8/22/2025, 1:26:14 PM

【midnight blue】

窓を開けると、夜の匂いがした。
昼の喧騒はすっかり消えて、静かな真夜中の青が街を包んでいる。

その青は黒よりも優しく、でも昼間の空よりもずっと重たい。
まるで秘密を抱えているみたいに、何も語らずただそこにある。

僕は、少しだけ息を吸い込んだ。
深呼吸すると、胸の奥に詰まっていたものが静かに溶けていく。
答えが見つからなくても、この色に包まれているだけで、まだやっていけそうだと思える。

きっと、明日もまた悩むだろう。
それでも、このmidnight blueを見上げたことは忘れない。

8/21/2025, 12:54:41 PM

【君と飛び立つ】

隣に君がいると、空が近く見える。
大きな翼なんてなくても、言葉ひとつで心は軽くなる。

今日まで僕は、不安や迷いに縛られていた。
でも、君が笑って「大丈夫」と言ったとき、足元の鎖がほどけた気がした。

飛び立つというのは、どこか遠くへ行くことじゃない。
君と一緒に未来を見上げる、その一歩がすでに飛翔なのだ。

だから僕は、迷わず君の手を握る。
翼のない僕たちでも、心の空なら、どこまでも飛んでいける。

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