NoName

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3/10/2024, 12:12:15 PM

※戦時的表現がアリ〼

「やあ、隣いいかな」
それ遺書? と尋ねながら男は隣に腰を下ろした。手紙です、姉に、と口からほんのちょっと言葉を発した男は、突然の来客に動揺して、しばし字形を乱す。
「……明日かい」
「ええ、光栄です」
左腕が不発弾でふっ飛ばされた姉のことを考えながら、書き続けている。僕の姉の利き手を奪った米軍を一人でも多く殺せれば大金星だと、思っている。
「国に姉を人質にとられているからだ」
「……はあ?」
見ず知らずの他人に姉のことを言われるのですら不快だった。それが人質だ何だというから、思わず書物をやめて顔を上げる。
自分と同じくらいの坊主頭の青年は、真面目な顔だった。目があったことにも臆さない。
「俺は戦時中にすべて失った。家族も恋人も今は腐ってどっかに転がってる。誰を守るでもない、俺は飛びたくない」
「はあ? あんた何言って――」
「国を愛すのは難しい。俺も何度か試したけど、この広くも狭い帝国の全てを愛すのはどだい無理な話だ。お前が俺を愛せないようにな」
……たしかに、僕が愛しているのは姉だ。
でも、それでいい。姉が生きているこの国を愛している。それがまかり通るなら、守りたい人が居ないこの国を目の前の青年が愛す理由はない。

「……だから俺は英雄になる。愛国心と脆弱な勇気で本国として抵抗する」
往きます、そう言って青年は飛行帽を被った。
その背中を見送って、ああ彼も怖かったのだと気づいた。
震える手を握りしめて、自分を戒めるために声を上げる。そんな彼が数分考えて言い放った言葉の意味を噛み締める。
【愛と平和】2024/03/10
愛と勇気が友達なら世界は本当に平和かな。

3/9/2024, 12:02:11 PM

タイムマシーンが出来たらどうなると思う?
未来に行くか過去に行くかって空論が机上に下りてくる。
残念! 新しいものの始まりは賛否両論と決まっているんだ。カメラや電子レンジみたいにね!

「――タイムマシーン開発者が失踪! 反対運動の高まりを受けてか?」
開発者は否定されるって分からなかったのかしら。
分かっていたさ、彼は天才だったからね!
じゃあ、どうして波紋の種になるような物を……?
それはね……。

桜並木が風に吹かれて、お祝いのように花弁を散らす。そんな風に見えた。
姉が生きている時代の春は輝かしく見える。タイムマシーンを開発して良かったと心から思う。
俺はもうこの3年間から出ることはないだろう。
何度でもこの春を繰り返す。
姉が居たこの春を。

バタフライ・エフェクトという言葉はきっとソレを起こす人間が考えた言葉じゃない。過去に執着する人間なんてのは未来のことなんてこれっぽっちも気に留めちゃいない。
いつだって失った日々が一番いとしいのだから!
【過ぎ去った日々】2024/03/09

3/8/2024, 2:58:19 PM

「おはようございます、観測者様」
空気圧が外界と揃うのに少しかかる。その間も外部の声を拾うようになっている。微妙な電流での目覚めは23回目となる。
ガラス戸が開く。
「……ちょべりぐ」
「……チョベリグー?」
22回目ではギリギリ通じた“すっげぇいい感じ的な? てかマジで2000年生きてんのゲキヤバなんですけど!”語録は起床早々彼らに大きな謎を残してしまったらしい。
切り替えよう。
「経済と技術、環境について知りたい。代わりに私はいつも通り君達に、紀元から今までの歴史を話す」
「ああ、はい。経済、完全に破綻。銀行券に価値のある時代は終わりました」
アメリカが解体された時点で予想はできたが、めざましいことだ。
「技術、22世紀の技術栄光時代のプログラムを解析していますが、進展は見られません」
22世紀の天才どもの脳みそを取っておけばと惜しむ人間はその脳みそを使う技術すら失われることに気づかない。何故ならそういう人間は22世紀の人間であり無自覚の天才だからだ。
「環境、見ての通り、氷河水宇宙放出の弊害として砂漠化は深刻です」
アメリカが沈みかけてから100年も経ったか。水晶の砂が素足の足の間で踏みつけへのレジスタンスを起こす。
「箱に詰められていた銀行券の破棄を提案いたします」
「二枚ずつ残してよ。銀行券は文化的価値の集大成なんだから」

お金より大事なものは文化と規則。
だって紙切れに価値がないと気付けば、みんな金の延べ棒を買うだろう?
【お金より大事なもの】2024/03/08
日付が変わる!みかん!!

3/7/2024, 12:10:39 PM

月夜ゼリー(1人前)の作り方
《注意》
新月の夜に作ること(天の月が自分の役割を見失ってしまいます)
常温で放置しないこと(うさぎが住んでしまいます)
■材料(1人前)
・ゼラチン ……5g
・コンフェイト……50粒
・月夜だったはずのあの日の涙……50cc
・星空のもと……大さじ6
・月読み果実のみかん……お好み
■作り方
1.月夜だったはずのあの日の涙を入れた鍋に、砕いたコンフェイトと星空のもとを入れ、夏ならアルタイル、冬ならシリウスが囁くまで混ぜます。
2.星星が囁いたら、ゼラチンを入れ、月うさぎが欠伸をするまで蓋をかけて煮ます。
(この間に月読み果実のみかんを切ってもいいでしょう)
3.月うさぎの退屈が煮詰まったら蓋を開けて、星空を型に流し込みます。月読み果実を切った方はここで入れましょう。切らなかった方はまた明日にしましょう。
4.冷蔵庫に入れましょう。このとき、暗夜の寂しさを入れると夢で月があなたを慰めるでしょう。
5.明日になれば完成です。月夜になる前に食べましょう。

月夜だったはずのあの日の涙…悪意がろ過された悲しさの味。
星空のもと…標高の高い地域で、早朝に朝露と採れる。しゅわしゅわする。
【月夜】2024/03/07
月読み果実は本当にあるので是非。
自分で書いといてなんですがこういう説明調の文は読む気になれません。利用規約を読み飛ばす感覚に似ています。

3/6/2024, 11:15:37 AM

「私達ズッ友だよね」
いつからか呪縛になった言葉を、見下ろしている。

「お願い。私達の仲じゃない」
少しくらい貸してよ、と舌っ足らずに言う。馬鹿になったものだ。公立小学校の旧友の知能レベルなんて気にしたこともなかった。小学生のあの頃と比べて、身体が大きくなっていれば成長したなんて感想を抱いてしまう。私も大概馬鹿だった。
「いい家に住んで、将来が安泰な夫がいて、三万なんて端金なんでしょう? こんな一等地で、私なんかにお茶出せるんだからさあ!」
ミニスカートについた鎖が椅子に傷をつけないか不安だった。
「お願い、中学まで一緒で親友だったでしょ? 見捨てるの? 高校入ってからもたまに遊びに行ったじゃない……」
泣き落としも見慣れてきた。最近は頻度が高い。彼女なりに限界を感じた結果なのだろう。
三万、机に置いた。
「……二度と来ないで」

過去の絆に絆されてばかりの私を、彼女も世間も馬鹿だと思うだろう。
しかしまあ、縁も絆もそう簡単に切れるものではないのだ。
彼女がまたインターホンを押せば私は扉を開けてしまう。過去、本当だった絆がゆっくりと私の首吊り紐を吊り下げていく。

こうしていつか心中する女の名前を、また呼ぶ。扉の前で、切実に。
【絆】2024/03/06
面白くない話!

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