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※戦時的表現がアリ〼

「やあ、隣いいかな」
それ遺書? と尋ねながら男は隣に腰を下ろした。手紙です、姉に、と口からほんのちょっと言葉を発した男は、突然の来客に動揺して、しばし字形を乱す。
「……明日かい」
「ええ、光栄です」
左腕が不発弾でふっ飛ばされた姉のことを考えながら、書き続けている。僕の姉の利き手を奪った米軍を一人でも多く殺せれば大金星だと、思っている。
「国に姉を人質にとられているからだ」
「……はあ?」
見ず知らずの他人に姉のことを言われるのですら不快だった。それが人質だ何だというから、思わず書物をやめて顔を上げる。
自分と同じくらいの坊主頭の青年は、真面目な顔だった。目があったことにも臆さない。
「俺は戦時中にすべて失った。家族も恋人も今は腐ってどっかに転がってる。誰を守るでもない、俺は飛びたくない」
「はあ? あんた何言って――」
「国を愛すのは難しい。俺も何度か試したけど、この広くも狭い帝国の全てを愛すのはどだい無理な話だ。お前が俺を愛せないようにな」
……たしかに、僕が愛しているのは姉だ。
でも、それでいい。姉が生きているこの国を愛している。それがまかり通るなら、守りたい人が居ないこの国を目の前の青年が愛す理由はない。

「……だから俺は英雄になる。愛国心と脆弱な勇気で本国として抵抗する」
往きます、そう言って青年は飛行帽を被った。
その背中を見送って、ああ彼も怖かったのだと気づいた。
震える手を握りしめて、自分を戒めるために声を上げる。そんな彼が数分考えて言い放った言葉の意味を噛み締める。
【愛と平和】2024/03/10
愛と勇気が友達なら世界は本当に平和かな。

3/10/2024, 12:12:15 PM