NoName

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2/23/2024, 11:30:26 AM

※直接的な表現がアリ〼

「おかあさんすき〜」
子供を生んで良かったと思う。母親なだけで、子供が愛を伝えてくれる。こうして手紙を書いてくれるのだ。複雑な見破れない嘘をつかないし、スキンシップの先にセックスがない。

でも、ふと思う。
いつまで続くんだろう。
この子の父親を私は知らない。夜の繁華街のグレーなソープでいつの間にか孕んだ子。性病じゃなくて良かったって思ったけど、後々私が出産のために休んだ期間を考えたら、病気とさして変わらなかった。
私が母親として愛を注ぐこの子が居る限り、ネオン下の男達は私を愛さない。
子持ちに近付いてくる男なんてロクなのがいない。子供も君も幸せにする、なんて。
私は一途な愛が欲しいんじゃない。手前の母親像と重ねて清廉な型に押し込まれても困る。母親になったって私の本質は少しも変わってないんだから。

「ただのヤりたい女が母親なんて向いてない」
大嫌いなママにいつも言っていた事だ。幼いながら核心をついていたと思う。
でも、私はママとは違う。この子を育てて、自分で自分を愛せるようになるまで、愛を注いで、注ぐ対象になってあげる。
親子をやってあげる。

だから、早く大きくなってね。可愛さもヤりたい身体も風化するの。女の子は賞味期限があるんだから、いつまでもアンタの母親なんてやってらんない。
【Love you】2024/02/23
らぶゆあせるふ

2/22/2024, 11:53:32 AM

さりちゃんカワイイって。さりって、私の名前。
ゆかちゃん頭いいって。ゆかって、私の幼なじみ。
大人しくて、三日月みたいな目とぷにぷにのほっぺがかわいい子。
ずっと一緒だった。私達の関係は、優しくてカワイイさりちゃんと、優しくて頭が良いゆかちゃん。
「卒業しても友達でいてね」
当たり前じゃん、学校一緒なんだから。

「さりちゃん!」
「ゆかちゃ――」

長い睫毛が影を落としている。三日月の目は向日葵の筒状花みたいで、お母さんの目が綺麗だったことを私に思い出させた。
太陽が居る。
「中学生になったらさりちゃんの隣に相応しい女の子になろうと思って」
白い手が私のこわばった両手を包む。
「かわいい? 勉強したてで、上手く出来てるかわからないんだけど」
お勉強はゆかの得意分野だ。……これが?
カワイイのは、さりだけでいい。
「ねえねえ名前なんて言うの」「え、ゆか? 名前もカワイイ〜!」「てかゆかちゃんさ――」
ゆかに話しかけるのは、さりだけでいい。
ゆかの代わりにさりが話してあげてたから、ゆかは誰とも話さなくて良い。
話すの苦手って言ってたじゃん。さりとだけ素で話せるんでしょ? ……なんで?

握られた手よりずっと酷く、喉がじりじりとした熱を持つ。
「ゆか……っ!」
取り巻きの知らない女の子が一斉に振り向く。……可愛い女の子。
太陽と月なんかじゃない。私はあの取り巻きの子たちみたいに照らされて輝くことも出来ない。
照らされた影が黒く濃くなっていくのを感じる。
焼ける蜜蝋の翼。さよならだ、俊敏なる青き春よ、私の特等席よ。
【太陽のような】2024/02/22

2/21/2024, 11:03:44 AM

――私には何もありません。転じて、何も無いがあります。
――いぃや何言ってんだお前!

……25歳になる女が居た。
深夜バラエティのキャラと顔だけ尖った女タレントをつまみにカップ酒を煽る自堕落な、と付け足せば彼女のことが軽く分かるだろうか。総じて社会からの滑落者である。

しかし曰く、それは彼女が今まで人生設計のスタートラインに立っていなかったからに過ぎない。
25歳から始まる彼女の人生、その前準備はすっかり済んでいた。
家の物を片っ端から捨て、預金口座から大したこともない金額引き出して育て親に譲渡。友達の連絡先は全削除し、煙草も辞めた。
そして誕生日、今までの自堕落さとの決別のため、カップ酒でケリをつける、そのつもりだった。
何も無いがある。
あまりにタイムリーな話だった。
(そういえば、家が未だある、服も、靴も、スマホも)
……大掃除と何が違う? 快適さを残して不用品を生活から取り払っただけだ。
――いぃや何言ってんだお前!
頭を冷やすべきだ。外に出て、空気を吸って。
(ああ、でも物を捨ててもこの身体は残る。ミニマリストと何が違う?)
ベランダに出ると、住宅街の優しい夜景が見える。

お気付きだろうが、社会から滑落した女がまともな人間であるはずはない。
女はきっと既に心を病んでいたのだ。
0からのスタートというと、そこから1にする大変さを描かれがちである。
ただ、実際、多分、きっと『0になる』――スタートラインに立つ方がよっぽど難しい。

明滅して過ぎるベランダのリピート、唸る風、ミニマムな走馬灯……。
その最下層で、私はようやく0になった。
【0からの】2024/02/21

2/20/2024, 10:56:45 AM

同情なんかいらないって言ってる人ほど深刻に同情してあげたくなるじゃない。
これって私の性格が悪いからなのかしら?
【同情】2024/02/20
ずっとおもしろくないものをかいている

2/19/2024, 1:23:36 PM

夏頃から夫が行方不明で、その妻の美貌も失われた秋の暮れの話だ。

枯れ葉をブロワーで庭の隅に追いやる。それくらいの元気は、彼女にあった。
夫婦は所得が高い……いわゆる上流階級で、住居を都会から郊外へと移す段階で広い家と庭と備え付けプールを手に入れた。
広い分、不可視の場所も増える。
言ってみれば秋ごろにしか、夫婦が庭全てを見て回る時期はなかったと言えよう。
「こんなところに、溜めたかしら」
彼女は盛り上がった落ち葉の山に首を傾げる。
無論、そんなことはなく、ずっと向こうの方に落ち葉の蟠りが望める。向こうの山こそが、彼女がためたものだ。
……ブロワーを吹き付ける。
嫌な予感がしていた。
……なかなか落ち葉が飛ばない。
焦燥感は募る一方だ。

やがて、彼女がこの落ち葉の山が作り物であると気づいたのと、彼女が贋物を蹴り飛ばしたのはほぼ同時だった。

ああ、かれは――
【枯葉】2024/02/19

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