もう日付が変わるね。あとちょっと。
……実は明日から、この世界の原則がいくつか変わるんだ。
あ、十二時。
どう? なにか変化は?
無い? そう、良かったね。今日の変化はあんまり君に関係ないのかも。
昨日は大変だったもんね。え? 何がって、昨日も少し世界が変わったんだよ。
君が知らないだけだよ。全部ね。
あ、どうしたの?
身体が溶けてる? ああ、うん。日付が変わったからね。今日の変化でしょ。
なんでって、忘れたの?
昨日、日付変更線が7度ズレたの。
【今日にさよなら】2024/02/18
いつかておくれなせかいを、おまえはしらない。
「オキニとかオキラとか変わんなくないですか?」
むしろ対義語だろ、と新作フラッペをズゴズゴ吸う。
彼女は夜職のポエマーティーンだ。以上でも以下でもない。
「ナゼに?」
「だってオキニもオキラも推し認知もらってるじゃないすか」
最近お熱なアイドルにこじらせたのだろうか。声がでかい。
「フーン、でも、オキラは干されるじゃん?」
「オキニだってたまにファンから干されますよ」
へー、オキニのオキニは気に入らないのか。身勝手なの。
でもアイドルからしてみれば、オキニは神様、オキラはカスだ。全然一緒じゃないじゃん、と薄味ホイップを飲み干した。
「最前でファンサ貰ってたでしょ! チョーシ乗んないでよね!」
カワイイ子がギャンッと毒を吐くのは、ポメがキャンッと人見知りを発揮するのに似ている。
誰かのオキニな時点で、誰かのオキラだ。好きな人の好きな人なんて絶対気に食わないに決まってる。
……つまり、このカワイコちゃんは、私が奴のオキニだと思ってるんだ。
「なに笑ってるわけ? キモいんですけど」
なんて、ちょっと優越感。
【お気に入り】2024/02/17
誰よりも美しく愛しい人が居た。
「面白い人好き」
俺はお笑い芸人になってグランプリを獲った。
「ギターが弾けたらかっこいい」
俺はギターのコンクールで優勝した。
「年収は欲しいよね」
俺は株投資で年収1000万を超えた。
「……ありがとね」
俺は彼女の結婚式に立っていた。
祝辞にも余興にも――友人として参加した俺の足は震えて止まることを知らないようだった。
彼女と結婚したのは、お笑い芸人でもなければ、ギターも弾けない。年収は500万を超えない。
俺からすれば、名前もつかないようなモブ。Aだ。新郎A。
誰よりも優れようとした俺のライバルにもならないような男。
「え? 結婚相手に俺を選ばなかった理由? 普通聞けないぞ〜、そんなこと」
呑気に笑う彼女は、麦茶片手に酩酊しているようだった。マリッジブルーとは疎遠らしい。
「……どっちが優れてたとかじゃないんだよね。会ってこの人しか居ないって本気で思ったの」
俺は……どうすれば良いんだ?
誰よりも優れた男は立ち尽くした。
【誰よりも】2024/02/16
すらんぷですとかいってみる、くすくす
削除済
【10年後の私から届いた手紙】2024/02/15
「お前私のこと嫌いだったりする!!?」
どうしてそうなった、と聞きたいが今はひとまず我慢だ。
もらったチョコを無作為に摘みながら「なにを……」とサスペンスのクライマックスのような返しをしてみた。が、意に介さずと言ったふうに友人はスマホの画面を私の鼻先に押し付ける。
「マシュマロを寄越したでしょバレンタインに!」
「そうだね、お前好きじゃん」
「ちーがーくてーーー!」
友人が地団駄を踏み始めたときには、私はマシュマロの意味が大変ネガティブであるというトピックの先、『グミのネガティブな意味は……!』トピックまで読み進めていた。
「なんか縁起悪いじゃん!」
縁起は関係ないし、当人が思ってなかったらその意味もないだろ。
やれ花言葉だの月が綺麗だの、物に内包された意味をつけるのがお好きなことだ。
くだらないと手元の友チョコに目を移す。
私がマシュマロを贈ったことに申し訳無さを感じなければいけないとしたらお前もだろ。グミだグミ。これも良くないんだろ。
「だってお前グミ好きじゃん!!」
言うに決まってる。
プレゼントなんて人間関係への投資だ。
そんなものに意味を込める時点で曲がりなりにも愛だ。
【バレンタイン】2024/02/14
あきてる。