NoName

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誰よりも美しく愛しい人が居た。
「面白い人好き」
俺はお笑い芸人になってグランプリを獲った。
「ギターが弾けたらかっこいい」
俺はギターのコンクールで優勝した。
「年収は欲しいよね」
俺は株投資で年収1000万を超えた。
「……ありがとね」
俺は彼女の結婚式に立っていた。

祝辞にも余興にも――友人として参加した俺の足は震えて止まることを知らないようだった。

彼女と結婚したのは、お笑い芸人でもなければ、ギターも弾けない。年収は500万を超えない。
俺からすれば、名前もつかないようなモブ。Aだ。新郎A。
誰よりも優れようとした俺のライバルにもならないような男。

「え? 結婚相手に俺を選ばなかった理由? 普通聞けないぞ〜、そんなこと」
呑気に笑う彼女は、麦茶片手に酩酊しているようだった。マリッジブルーとは疎遠らしい。
「……どっちが優れてたとかじゃないんだよね。会ってこの人しか居ないって本気で思ったの」

俺は……どうすれば良いんだ?
誰よりも優れた男は立ち尽くした。
【誰よりも】2024/02/16
すらんぷですとかいってみる、くすくす

2/16/2024, 12:06:59 PM