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夏頃から夫が行方不明で、その妻の美貌も失われた秋の暮れの話だ。

枯れ葉をブロワーで庭の隅に追いやる。それくらいの元気は、彼女にあった。
夫婦は所得が高い……いわゆる上流階級で、住居を都会から郊外へと移す段階で広い家と庭と備え付けプールを手に入れた。
広い分、不可視の場所も増える。
言ってみれば秋ごろにしか、夫婦が庭全てを見て回る時期はなかったと言えよう。
「こんなところに、溜めたかしら」
彼女は盛り上がった落ち葉の山に首を傾げる。
無論、そんなことはなく、ずっと向こうの方に落ち葉の蟠りが望める。向こうの山こそが、彼女がためたものだ。
……ブロワーを吹き付ける。
嫌な予感がしていた。
……なかなか落ち葉が飛ばない。
焦燥感は募る一方だ。

やがて、彼女がこの落ち葉の山が作り物であると気づいたのと、彼女が贋物を蹴り飛ばしたのはほぼ同時だった。

ああ、かれは――
【枯葉】2024/02/19

2/19/2024, 1:23:36 PM