御蔭

Open App
2/7/2025, 1:47:38 AM

遠い宇宙の何処かの話。
彼女は星を見るのが好きだった。
病弱故に満足に外へ出ることもできず、家族が買った望遠鏡を大事にしていた。
ある日、星は人の形を成し始めた。そのうちの一人が、彼女の屋根裏部屋に興味を示すように近付く。
彼らの言葉は分からなかったが、二人は楽しく過ごした。

彼は星の王であった。
秘密基地というものを試しに作ってみれば、これが楽しかった。
狭くて小さい空間に、自分の好きを詰め込むのが良い、と。
彼は悩んだ。こんなに楽しいことを教えてくれた彼女に、何で返すべきか。もう時間がない、彼女がそうこぼしたのを思い出した。
そういうわけで────

星が降る。
彼女はその目で流星群を見た。
望遠鏡の傍らに眠る彼女が起きることはない。誰かが言った。
「これは弔いの光。夜が明ける前に、彼女を送り出そう」
こうして主を失った秘密基地だが、家族は変わらず手入れを怠らない。
「いつもありがとう。また会いに来るね」

『蒼き星を仰ぐ』
お題
静かな夜明けの

2/5/2025, 9:57:07 AM

 棺桶の扉が開かれ、遺族と参列者が周りを囲む。雪見は花が詰められた籠を持って彼らの元へ歩く。

「別れ花を添えた後は釘打ちの後、火葬が行われます。故人様にお別れを伝えることが出来る最後のお時間です」

 喪主である老婦人はすすり泣き、ハンカチで拭う。彼女は雪見の方を向き、合図を送る。

「喪主の巴様から、ご遺族様、参列者の皆さまの順で配ります。手向ける際には故人様のお顔が隠れないよう、ご協力をお願いいたします」

 白菊、白百合と白い花が目立つ。孫たちが折った折り鶴や舟など紙細工も手元に添えられる。籠いっぱいの花は二周したところで全て納められ、最後は、色とりどりのガーベラの花束を以て棺は固く閉ざされた。

「……また会いましょう、忠信さん」

『結び目は喉仏となり』
お題
永遠の花束

1/24/2025, 2:48:41 AM

次に目を開けたときこの夢は覚めてしまうだろう。
唇の柔らかな感触はずっと残り続けている。

「ずっと待っているから」


『芽吹いた希望』
お題
瞳を閉じて

1/21/2025, 11:48:51 AM

 アルセリアの両親は幼くして亡くなった。
 航海の際に嵐に巻き込まれ、彼らは水底に沈んだ。
 打ち上げられた遺品は彼女の元に届けられ、片時も話さずに身につけていた。
 数年後、アルセリアは住民たちに惜しまれながら、成人の儀式へと旅立っていった。心強い仲間を見つけ、旅をし、最後は海に巣食う恐ろしい怪物を封印した。

「お前は愛されているんだな」
「でしょ?」
「だな。俺達も、お前だからここまで着いてきたんだ」

 ヴァレンティノがそう言うと、彼女が肩を叩く。

「急にそういうことを言うな!びっくりするじゃん!」
「悪かった」

 鍛冶師である彼だから分かったことがある。
 彼女の身に付けている遺品は、部品が欠けることもなく、錆びる事もなく、彼女と共に在り続けている。遠い過去、深い海の底に沈んでも娘を想う親の愛は生き続けているのだと。

「アルセリア、これからどうする?」
「決まってるじゃん!船に乗って皆が行きたいとこに行くの!」

 看板に吹き抜けた潮風。アルセリアの首に下げた羅針盤が再び動きを始めた。

『終わらぬ旅へ』
お題
羅針盤

1/17/2025, 6:01:50 AM

 悲しみも悔しさも、深奥で混ざりあえば黒くなる。だがしかし、頬伝う雫は透明で、君を想う気持ちという上澄みのような気がした。

『魔女の泪』
お題
透明な涙

Next