百瀬御蔭

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 アルセリアの両親は幼くして亡くなった。
 航海の際に嵐に巻き込まれ、彼らは水底に沈んだ。
 打ち上げられた遺品は彼女の元に届けられ、片時も話さずに身につけていた。
 数年後、アルセリアは住民たちに惜しまれながら、成人の儀式へと旅立っていった。心強い仲間を見つけ、旅をし、最後は海に巣食う恐ろしい怪物を封印した。

「お前は愛されているんだな」
「でしょ?」
「だな。俺達も、お前だからここまで着いてきたんだ」

 ヴァレンティノがそう言うと、彼女が肩を叩く。

「急にそういうことを言うな!びっくりするじゃん!」
「悪かった」

 鍛冶師である彼だから分かったことがある。
 彼女の身に付けている遺品は、部品が欠けることもなく、錆びる事もなく、彼女と共に在り続けている。遠い過去、深い海の底に沈んでも娘を想う親の愛は生き続けているのだと。

「アルセリア、これからどうする?」
「決まってるじゃん!船に乗って皆が行きたいとこに行くの!」

 看板に吹き抜けた潮風。アルセリアの首に下げた羅針盤が再び動きを始めた。

『終わらぬ旅へ』
お題
羅針盤

1/21/2025, 11:48:51 AM