今日は特別な日だ。
ちょっとカッコよく言うとspecial dayってやつだ。
そう、大事な大事なお客様がオレの元へ来てくれる。
この世界を一変させたお客様。
人口密度問題というこの世界の課題を解決してくれたお客様。
命をたくさん奪った奴は英雄と呼ばれるが、まさしく奴はそれに値するのだろう。ニンゲンたちの世界では。
顔見知りはほとんどいなくなった。
アイツまでも……いなくなった。
……今日は特別な日だ。
オレにとっても、奴にとっても、この世界にとっても。
……そうこうしている内にお客様がご到着されたようだな。
さあ、はじめようか。
ケツイのぶつかり合いってやつを。
§
元ネタは『UNDERTALE』のとあるルートです。
どのルートも曲やストーリーが最高なのでぜひプレイしてみてください。
大きな桜の木が風に吹かれてそよそよと揺れている。
その揺れる木陰を見て影踏みをしている子どもが一人。
キャッキャと楽しそうに遊んでいたけれど、母親の呼び声に応えて行ってしまった。
……こんな暑いのに子どもは元気だなあ。
日向にいても木陰にいても私はバテてしまう。
だからエアコンの効いた部屋に引きこもるしかないのさ。
生命維持のために。
ぼんやりと金魚を眺めていると、不意に金魚がぴょんと金魚鉢から飛び出して空中を泳いでいた。
すごいなあ、金魚も空を飛ぶ時代かあと感心しているとコポコポと音がした。
なんだろう? と思っているといつの間にか部屋が水で満たされていて、私の出す泡が天井に向かって浮かんでいった。
金魚はすごいスピードで部屋中をギュンギュン飛び…泳ぎ回っていて、喜びを全身で表しているようだった。
だけどエアコンの前で止まって「おいでー」と声をかけると小さな金魚たちがわらわらと集まってきて、さらにコンセントからはデメキンが出てきた。
エアコンが住処なんだなあと思っていると金魚が私の周りをグルグル泳ぎ、眼前で止まった。
そしてとてつもなくゆっくりと私の耳元まで来て「どうしてここにいるの?」と超バリトンボイスで囁かれた。
ハッとなって目をパチクリさせると、私は金魚鉢の前で座り込んでいた。
小さな金魚もデメキンもいない。そもそも部屋は水で満たされてない。
ただの夢? それとも真昼の夢もとい白昼夢?
首を捻りつつ体を伸ばして部屋を出ようとすると、背後からパシャッという音と何かが床に落ちたような音がした。
振り返ると金魚が床の上でパタパタとのたうち回っている……
私は少し寒気を感じながらも金魚を金魚鉢に戻して足早に部屋を出る。
私が……いや、金魚が見たのは胡蝶の夢だったのだろうか。
答えはたぶん誰にもわからない……
明るい。だけど今の時刻は真夜中。
あつい。だけど今は真冬。
賑やか。だけどすぐ静かになる。
ゴウゴウと街を飲み込んでいく炎。天まで届く黒煙。
崩れ落ちる建物。かつて生き物だった炭。
私は翼をはためかせ空から街の様子を見下ろしていた。
私は俗に悪魔と呼ばれている。
ここにいる理由は魂の回収のため。
言っておくけど火を放った犯人は私ではない。
悪魔が直接手を出してはいけないと定められているからだ。
それはさておき、私は大袋の口を開けてさまよえる魂を片っ端から放り込んでいく。
この魂をサタン様に捧げることでサタン様は神と成り私たち悪魔を救済してくれる……らしい。
あらかた回収が済んだので引き上げようとすると、どこからか赤ん坊の泣き声が聞こえていた。
声を頼りにガレキをどかすと、大人に守られるように包まれていた無傷の赤ん坊が元気よく泣いていた。
運の良い奴、と呟いて私はその赤ん坊の魂に印を付けてから魔法で遠くに飛ばす。
もし飛ばした先で運悪く死んでしまったらその魂は私の元に戻ってくるし、生き延びてもいずれ私と出会う運命にある。
その時には奴の魂をバリボリ喰って力をつけるのさ。
赤ん坊よりも大人である方が恨みやら絶望やらを溜め込んで美味だからね。
ちょっとぐらいならつまみ食いしたって咎められはしない。
まあそういう呪いでもありマーキングでもある。
この世では私と奴、二人だけの。
白い大きな帽子が似合う黒髪の君。
黄色のワンピースを風に遊ばせている君。
青い花の飾りがついたサンダルを脱ぎ、素足を海に浸している君。
君の目線の先に何が見えているのか、それは僕にはわからない。
同じように僕が見てもそこには煌めく海の水平線、それと交わる青い空しかない。
君にしか見えない何かがあるのだろうか。
気になって声を掛けようとしたら、君はこちらを向いてニコリと微笑んだ。
それがとても寂しそうに見えてしまったけれど、直後に僕を呼びに来た友達に気を取られた一瞬の隙に君はいなくなっていた。
……夏が来る度に君と出会った海へ行って君の姿を探す。
親や友達は君のことを知らないし見たこともないと言う。夏の暑さにやられたのではないかとも言われた。
そうだったとしても僕は君にもう一度会いたい。
蜃気楼でも陽炎でも幻影でもいい。
夏が見せた一時の夢だったとしてもいい。
ただもう一度会いたい。
ただそれだけなんだ。