バスクララ

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7/15/2025, 2:15:03 PM

明るい。だけど今の時刻は真夜中。
あつい。だけど今は真冬。
賑やか。だけどすぐ静かになる。
ゴウゴウと街を飲み込んでいく炎。天まで届く黒煙。
崩れ落ちる建物。かつて生き物だった炭。
私は翼をはためかせ空から街の様子を見下ろしていた。
私は俗に悪魔と呼ばれている。
ここにいる理由は魂の回収のため。
言っておくけど火を放った犯人は私ではない。
悪魔が直接手を出してはいけないと定められているからだ。
それはさておき、私は大袋の口を開けてさまよえる魂を片っ端から放り込んでいく。
この魂をサタン様に捧げることでサタン様は神と成り私たち悪魔を救済してくれる……らしい。
あらかた回収が済んだので引き上げようとすると、どこからか赤ん坊の泣き声が聞こえていた。
声を頼りにガレキをどかすと、大人に守られるように包まれていた無傷の赤ん坊が元気よく泣いていた。
運の良い奴、と呟いて私はその赤ん坊の魂に印を付けてから魔法で遠くに飛ばす。
もし飛ばした先で運悪く死んでしまったらその魂は私の元に戻ってくるし、生き延びてもいずれ私と出会う運命にある。
その時には奴の魂をバリボリ喰って力をつけるのさ。
赤ん坊よりも大人である方が恨みやら絶望やらを溜め込んで美味だからね。
ちょっとぐらいならつまみ食いしたって咎められはしない。
まあそういう呪いでもありマーキングでもある。
この世では私と奴、二人だけの。

7/14/2025, 1:46:01 PM

白い大きな帽子が似合う黒髪の君。
黄色のワンピースを風に遊ばせている君。
青い花の飾りがついたサンダルを脱ぎ、素足を海に浸している君。
君の目線の先に何が見えているのか、それは僕にはわからない。
同じように僕が見てもそこには煌めく海の水平線、それと交わる青い空しかない。
君にしか見えない何かがあるのだろうか。
気になって声を掛けようとしたら、君はこちらを向いてニコリと微笑んだ。
それがとても寂しそうに見えてしまったけれど、直後に僕を呼びに来た友達に気を取られた一瞬の隙に君はいなくなっていた。
……夏が来る度に君と出会った海へ行って君の姿を探す。
親や友達は君のことを知らないし見たこともないと言う。夏の暑さにやられたのではないかとも言われた。
そうだったとしても僕は君にもう一度会いたい。
蜃気楼でも陽炎でも幻影でもいい。
夏が見せた一時の夢だったとしてもいい。
ただもう一度会いたい。
ただそれだけなんだ。

7/13/2025, 2:47:13 PM

妹は兄に会いたかった。ただそれだけだった。
そのために人ならざる存在と成り果てしまったが、心は人のままだった。
彼女が会いたくてたまらない兄もまた、人ならざる存在になっていた。
心は人のままであったが、たった一つだけ妹と違う点があった。
それは、記憶の大半を失ってしまっていること。
妹のことを忘却してしまった兄は、彼女のことを人であることを捨てた魔の手先と思い込んでいる。
彼らはどのような運命を辿るのか。
隠された真実を見つけ出すのは、とある海都を訪れた冒険者たち……かもしれない。


§


元ネタは『世◯樹の迷宮III 星海の来訪者』です。
少し歯ごたえのあるゲームですが、とてもおもしろいので良かったらぜひ遊んでみてください。

7/12/2025, 1:38:16 PM

リーン……リーン……と高く澄んだ南部鉄器の風鈴の音が聞こえる。テレビから。
一応リアルでも軒下に風鈴を吊り下げているのだけど、部屋を閉め切っているから音が籠もって聞こえにくいし、そもそも風情を感じる暑さじゃない。暑すぎる。
温風というか熱風の中で聞く風鈴の音は一瞬涼しげに感じるけど、やっぱりものすごく暑いと思ってしまう。
だから涼しい部屋で風鈴の動画を聞いてるのだけど……なんというか、風情がない気もする。
ああ、昔みたいに程よく暑い夏はもう来ないのだろうか。
こんなに暑い夏はちょっともう、こりごりだ。

7/11/2025, 3:17:45 PM

頭を抱えたい。でも今抱えることはできない。
なぜなら、今は数学のテストの真っ最中だから。
全くもってわけわからん。おかしいな、授業は五分か十分くらい起きてたし、ノートだってクラスで一番の真面目ちゃんから借りて丸写ししたのに!
なんで一つもわからないんだ!
ああもうどうしよう……赤点確実間違いなしだ……
……いっそのこと、寝るか……
そう決めてぺたりと右頬を机にくっつけると、横の席の答案がちらっと見えた。
そして私の頭に閃き電流が走る。
見えてる答えを書けばいいじゃん!
よし、そうと決まれば……唸れ! 私の視力!!
じ〜〜っと見てると視線に気づいたのか、横の人はわざわざ答案用紙を私の方に寄せてきた。
いいの? と口パクで訊くと、その人は私を横目で見てから親指を立て机に突っ伏した。
ありがとう心の友よ! これで0点は回避できる!
パパっと見えてる範囲を書き、わからないところは全部2と埋めた。
でもそこでふとある思いがよぎる。
……私のしたことって……カンニングなのでは……? やってはいけないことでは……?
悶々と考えたところで答えが見つかるはずもなく、やがて妄想という名の現実逃避……ちょっとカッコよく言うと心だけ、逃避行を始めた。
そうこうしている内にチャイムが鳴り、テストが終わった。
そして後日、返ってきた答案用紙の右上には大きく0と書いてあった。
見えてた横の人の答えも2で埋めたところもぜーんぶ間違っていたらしい。
……ちくしょー!

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