バスクララ

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5/6/2025, 12:27:01 PM

大好きなあのラブソング。
だけどその歌が好きだとを誰かに話したりしないし、カラオケで歌うこともない。
なぜならその歌は、親友の恋人を奪ってしまう歌だから。
私にそんな趣味があると思われるのは心外だし、何より私の状況と歌の状況がピタリと合致している今では余計な波風を立てたくはない。
あの二人は付き合いたてでとても幸せなのに、私のせいで二人の愛に亀裂を入れたくない。
例えあの歌が私の心情に寄り添っていても、私は二人の心を守らなきゃ。
……それが最善手だって、理解はしてる……

5/5/2025, 12:25:08 PM

家族アルバムを数年、いや十数年ぶりに開いてみる。
若い両親が二人で写ってる写真、300系の新幹線と一緒に写ってる笑顔の幼い兄、元気な祖父と祖母、ベビーカーに乗ってる赤ちゃんの自分……
いろんな場所へ旅行に行ったんだなぁとしみじみ思っていると、色あせた手紙を発見した。
こんなもの挟んだっけ? と首を傾げながら手紙を開くと、そこには拙い子供の字でこう書いてあった。
『おとうさん いつも おつかれさまです。
おとうさん だいすきです。
おとうさんの おち◯◯ん まっくろけです』
……最後の一文で吹き出した私は悪くないと思う。
というか、誰がこんなものを書いたんだ!?
笑いを堪えつつ母に訊くと、なんと私が幼稚園児の頃に書いたものだと言う。
で、その一文は母が半分悪ふざけで『こう書いたらお父さん喜ぶよ〜』と言ったら真に受けた私が大真面目に書いたらしい。
……おお母よ。子供になんてことを書かせるのだ。
だがそれよりも、なんでアルバムにこんなものを挟んであったんだろう……?
母は知らないと言うし、父も兄もわからないと首を横に振った。
……謎は深まるばかりである。

5/4/2025, 2:29:07 PM

黒髪ロングの、まるで絵に描いたような清楚系生徒会長。
彼女に憧れる生徒は数多く、毎日のようにラブレターや告白が絶えないらしい。
その度に彼女はほんのり眉を下げて断りの手紙や返事をしているそうだ。
そして言い回しもかなり丁寧で、決して相手を傷つけない言葉遣いにしているとのこと。
だから彼女を悪く言う人など滅多にいない。
だけどあたしは知っている。
一年二組の担任でもある数学の先生。その先生を見る目が違うことを。
あたしがそれを知ったのは偶然だった。
すれ違う瞳が彼女らしからぬ憎悪に塗れていて、思わず背筋がゾクッとしたのを覚えている。
不自然に固まったあたしを見て、彼女は優しい慈母のような笑みを浮かべ、人差し指をそっと口に乗せた。
口外したらガチでヤバいことになる。
そう本能が囁いたあたしは必死にコクコク頷いて逃げるように教室へ走った。このことはおそらく一生忘れないだろう。
彼女と数学の先生に何があったのかは知らない。知りたくもない。
ただ、彼女にも先生にもできるだけ関わりたくない。
触らぬ神に祟りなし。まだあたしは平穏に過ごしたいから。

5/3/2025, 12:27:16 PM

果てしなく続く青い青い空。
それと同じように歴史は続いていく。
大切なことを思い出した彼らの人生も、これからまだまだ続いていく。
もう二度と顔も声も交わすことのできない彼に、彼らは前と変わらぬ間柄で笑い合うのだろう。
青い青い空の果てに。


【忘却のリンドウ 16/16 END】

5/2/2025, 3:52:48 PM

一度完全に、心にも引っかからないくらいにまで忘れてしまったことを自力で思い出すのはかなり難しい。
だが人の好奇心は侮れないもので、ふとした出来事や瞬間から心のざわめきを感じ取り、それが何なのか追い求める内に思い出す……なんてこともある。
しかしそれはあくまでも人の話。
神の力によって為す術もなく記憶が消されてしまった場合は、どんなことをしても忘れたものを思い出すことはない。
どんなに悪あがきをしても、神の力によって消されし記憶や存在を思い出すことは二度とない。
だが、そこにほんの少しの気まぐれで人ならざるものが手を貸したら?
そしてその人ならざるものが神のことを嫌っていたら?
そう、私は彼らが悪あがきをしていることを知っていた。
彼らがよく来る喫茶店。そこで彼らの事情を知った。
人に肩入れするのは良くないと思いつつ、それでも神の鼻を明かしたかったから少しだけ手を貸した。
まさか完全に思い出すとは思わなかったけど。
だがこれで良かったのだろう。
彼らからも忘れられるとあの子は完全にいなくなってしまう。それは何とも悲しくもあり、残念でもある。
そうだ、たまには喫茶店の店主らしく新メニューでも作ろうか。
彼らをモチーフにした新作スイーツ。
名前は……sweet memories (甘美な思い出)とでもしておこうかね。


【忘却のリンドウ 15/16】

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