一度完全に、心にも引っかからないくらいにまで忘れてしまったことを自力で思い出すのはかなり難しい。
だが人の好奇心は侮れないもので、ふとした出来事や瞬間から心のざわめきを感じ取り、それが何なのか追い求める内に思い出す……なんてこともある。
しかしそれはあくまでも人の話。
神の力によって為す術もなく記憶が消されてしまった場合は、どんなことをしても忘れたものを思い出すことはない。
どんなに悪あがきをしても、神の力によって消されし記憶や存在を思い出すことは二度とない。
だが、そこにほんの少しの気まぐれで人ならざるものが手を貸したら?
そしてその人ならざるものが神のことを嫌っていたら?
そう、私は彼らが悪あがきをしていることを知っていた。
彼らがよく来る喫茶店。そこで彼らの事情を知った。
人に肩入れするのは良くないと思いつつ、それでも神の鼻を明かしたかったから少しだけ手を貸した。
まさか完全に思い出すとは思わなかったけど。
だがこれで良かったのだろう。
彼らからも忘れられるとあの子は完全にいなくなってしまう。それは何とも悲しくもあり、残念でもある。
そうだ、たまには喫茶店の店主らしく新メニューでも作ろうか。
彼らをモチーフにした新作スイーツ。
名前は……sweet memories (甘美な思い出)とでもしておこうかね。
【忘却のリンドウ 15/16】
5/2/2025, 3:52:48 PM