バスクララ

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5/3/2025, 12:27:16 PM

果てしなく続く青い青い空。
それと同じように歴史は続いていく。
大切なことを思い出した彼らの人生も、これからまだまだ続いていく。
もう二度と顔も声も交わすことのできない彼に、彼らは前と変わらぬ間柄で笑い合うのだろう。
青い青い空の果てに。


【忘却のリンドウ 16/16 END】

5/2/2025, 3:52:48 PM

一度完全に、心にも引っかからないくらいにまで忘れてしまったことを自力で思い出すのはかなり難しい。
だが人の好奇心は侮れないもので、ふとした出来事や瞬間から心のざわめきを感じ取り、それが何なのか追い求める内に思い出す……なんてこともある。
しかしそれはあくまでも人の話。
神の力によって為す術もなく記憶が消されてしまった場合は、どんなことをしても忘れたものを思い出すことはない。
どんなに悪あがきをしても、神の力によって消されし記憶や存在を思い出すことは二度とない。
だが、そこにほんの少しの気まぐれで人ならざるものが手を貸したら?
そしてその人ならざるものが神のことを嫌っていたら?
そう、私は彼らが悪あがきをしていることを知っていた。
彼らがよく来る喫茶店。そこで彼らの事情を知った。
人に肩入れするのは良くないと思いつつ、それでも神の鼻を明かしたかったから少しだけ手を貸した。
まさか完全に思い出すとは思わなかったけど。
だがこれで良かったのだろう。
彼らからも忘れられるとあの子は完全にいなくなってしまう。それは何とも悲しくもあり、残念でもある。
そうだ、たまには喫茶店の店主らしく新メニューでも作ろうか。
彼らをモチーフにした新作スイーツ。
名前は……sweet memories (甘美な思い出)とでもしておこうかね。


【忘却のリンドウ 15/16】

5/1/2025, 1:59:03 PM

『私はいつか皆から忘れ去られる。
母も竜も私のことを忘れてしまうだろう。
だが空、お前はどうにか覚えていてほしいんだ』
『……そんなの』
『無理ではない。……そうだな、例えばお前の机の引き出しに学校の写真があって、裏に忘れるなと書いてあったら……疑問に思うか?』
『そりゃあ……なんでこんなものが? とは思うけど』
『そう。それが記憶の引っかかりとなり、ゆくゆくは私のことを思い出す……となれば万々歳だ』
『そんなうまいこといくかなあ……』
『うまくいく確証も保障もないがやるしかない。
期待しているぞ。私の一番の友達』
……夢から覚めてその内容に思わず両手で顔を覆う。
たった半年前のことなのに今の今まで忘れていた。
彼の言っていた通り、彼は世界から忘れ去られてしまった。
僕と、彼の弟と、彼に恋をしていた彼女を除いて。
彼は今頃どこで何をしているのだろう。
なぜ彼がこの世から痕跡もなく消え去り、皆から忘れ去られてしまったのかはわからない。
前に彼に訊いた時、詳しくは教えてくれなかったけど選ばれたとだけ言っていた気がする。
……ああ、彼のことを考えていたいのに支度をして学校に行かなくちゃ。
でも昨日のことがあるからクラスメイトに根掘り葉掘り聞かれるんだろうな……どうやって乗り切ろう。
あの流行りのドラマ風と中二行動を合わせたら女子はときめくと思った。とでも言おうかな?
……いやいや、ただの痛いヤツじゃないか。
あーもう、本当にどうしよう……


【忘却のリンドウ 14/16】

4/30/2025, 1:44:01 PM

「おはよー神名。昨日はちゃんと休めたかー?」
 下駄箱に靴を入れていると友達が声をかけてきた。
 おれが曖昧な返事をしていると友達はおれの目を見て満足そうに二度と頷いた。
「クマはなし、顔色もよし。
あーあ、さぞかし昨日はちょー有意義な一日だったんだろうなー。うらやまし〜」
「まあな。おかげで大事なことを思い出せたよ」
「おっ、何々〜?」
「教えなーい」
「なんだよ〜、教えろよー!」
 そうふざけ合いながらおれたちは教室へ向かう。
 おれが昨日思い出したことをたぶん友達には一生言わないだろう。
 なぜなら友達はあの人のことを……兄貴のことを思い出すことはないから。
 兄貴の生きた軌跡が他の人から完璧に忘れ去られてしまっている状況では、おれがどんなに力説してもおれの妄想としか受け取られない。
 だからおれは誰にも話さないことにした。
 それともう一つ……
「そうそうおれさ、志望校、お前と一緒のとこにするから」
「はあっ!? あんなに根を詰めてたのに!?
……まあ、神名の成績じゃあの高校ちょっと厳しかったもんな。
まあ神名なら余裕じゃね。俺も頑張らないとなー」
 兄貴と一緒の高校に行きたかった。だけど兄貴はもういない。
 空さんや紫音さんはいるけど、彼らは決定打になれない。
 おれは兄貴の背中を追いかけたかった。
 兄貴の行く道をそっくりそのまま行くことも考えたけど、おれと兄貴では頭の出来が違いすぎる。
 だからおれはおれの道を行く。
 そしていつか人生の終焉の日に、自分の軌跡を振り返って満足できたらそれでいい。
 ……兄貴もきっとこんなおれを応援してくれるだろう。そう願っている。


【忘却のリンドウ 13/16】

4/29/2025, 1:38:33 PM

 目が覚めてすぐに昨日枕元に置いたしおりの有無を確認する。
 しおりはしっかりとそこにあって、カーテン越しの朝日に照らされてキラキラ煌めいて見えた。
 昨日のことを忘れてないことにガッツポーズをしてから、しおりを胸に抱く。
 ……ずっと一緒。もう忘れないからね。
 そう念じてから優しくそっと鞄の中に入れた。
 朝ごはんを食べ、あくびをかみ殺しながら通学路を歩く。
 ちらちらと私を見てくる人がいて、昨日の手紙が原因だろうなあとちょっと遠い目になる。
 教室に入ると待ってましたとばかりに噂好きな女子たちが私を取り囲んだ。
「ねえねえねえ! 昨日さ、隣のクラスの黒渕くんと並んで歩いてたらしいじゃん!
あれなの? あの手紙はやっぱラブレターで、告られたってこと!?」
「やだすごいじゃん! 黒渕くん優しいしそこそこイケメンだから狙ってる女子いっぱいいるのに〜!」
「藍沢さんこれまで全然黒渕くんノーマークだったのに、いったいどういう風の吹き回し?」
 きゃあきゃあと騒いで黄色い声を上げる女子たちに私は笑って首を横に振る。
「違う違う。あれラブレターでもなかったし、そもそも黒渕くんから告られてもないよ。
そもそも、彼のこと好きになれないの。好みのタイプじゃないから」
「ふーん……そうなんだ」
 女子たちは私に興味をなくしたみたいで自然と解散していった。
 でもひそひそ声で「まだ私にもワンチャンあるかも」「藍沢さんのあれは照れ隠しじゃね」とか聞こえてきたから数日は私も黒渕くんも噂に振り回されることになるんだろうなあと思った。
 ……黒渕くんとは恋愛関係になることはない。
 恋愛的な意味で好きになれない、嫌いになれない。
 あの人のことを覚えている特別な友達。私にとってはそれでいいの。
 私が好きなのはあの人。忘れていたあの人だけ。
 それはきっとこれからも変わらない。
「……絶対に忘れない。忘れたりしない。永遠に」
 小声で呟いた私の決意は誰にも聞かれることはなかった。
 私は生涯をかけてあの人を愛する。
 その結果一人になっても構わない。あの人が思い出の中で生きているなら、私はそれで幸せなの。


【忘却のリンドウ 12/16】

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