『私はいつか皆から忘れ去られる。
母も竜も私のことを忘れてしまうだろう。
だが空、お前はどうにか覚えていてほしいんだ』
『……そんなの』
『無理ではない。……そうだな、例えばお前の机の引き出しに学校の写真があって、裏に忘れるなと書いてあったら……疑問に思うか?』
『そりゃあ……なんでこんなものが? とは思うけど』
『そう。それが記憶の引っかかりとなり、ゆくゆくは私のことを思い出す……となれば万々歳だ』
『そんなうまいこといくかなあ……』
『うまくいく確証も保障もないがやるしかない。
期待しているぞ。私の一番の友達』
……夢から覚めてその内容に思わず両手で顔を覆う。
たった半年前のことなのに今の今まで忘れていた。
彼の言っていた通り、彼は世界から忘れ去られてしまった。
僕と、彼の弟と、彼に恋をしていた彼女を除いて。
彼は今頃どこで何をしているのだろう。
なぜ彼がこの世から痕跡もなく消え去り、皆から忘れ去られてしまったのかはわからない。
前に彼に訊いた時、詳しくは教えてくれなかったけど選ばれたとだけ言っていた気がする。
……ああ、彼のことを考えていたいのに支度をして学校に行かなくちゃ。
でも昨日のことがあるからクラスメイトに根掘り葉掘り聞かれるんだろうな……どうやって乗り切ろう。
あの流行りのドラマ風と中二行動を合わせたら女子はときめくと思った。とでも言おうかな?
……いやいや、ただの痛いヤツじゃないか。
あーもう、本当にどうしよう……
【忘却のリンドウ 14/16】
5/1/2025, 1:59:03 PM