「七色に光るものってレア感ある気がしないかね?」
原稿用紙をなぜか太陽にかざしながら先輩が呟く。
珍しく文芸部員らしい創作活動しているなあと思っていたのに、この先輩はすぐ飽きたらしい。
先輩は私が反応してないのにも関わらず語っていく。
「アプリのガチャのSRとかURとかの演出、ガチャ石も七色、つまりは虹色のものが多いんだよ。
やっぱり人類は虹に惹かれるものがあるのかねぇ?」
「バカなこと言ってないで文芸部員らしい活動してください」
私がそう言うと先輩はあっはっはと大笑いしてから楽しそうに腕組みした。
「うむ、君はいつだって辛辣だね!
まあでも考えてみたまえよ。虹というのは太陽光が水滴や鏡などに反射して七色に見える現象だ。
色が分かれているのは光の波長がそれぞれ異なっていて、同じように屈折率も」
「結論を言ってください」
先輩はむー……と唸りながら目を閉じ難しそうな顔をして何か考えるような仕草をした。
この人きっと言いながら結論を考える気だったな……?
しばらくして結論がまとまったのか先輩が目を開ける。
「……空に架かる虹は気象条件が限られる。そこから転じてレアだという認識があるのではないかと私は思うのだよ。
君も虹を見たらテンション上がるだろう?」
「……まあ、多少は」
「うむ、そうだよね!」
先輩は満足げに頷いてまた原稿用紙を太陽にかざす。
創作しないんだ……と思うけど、こっちの方がなんだか先輩らしい。
それでもやっぱり文芸部員らしいことはしてほしいけども。
十年ちょっと前のとある大雪の日。
どうしても東京に行かねばならない用事があってギリギリ動いてた新幹線に乗った。
車窓は一面の雪景色。こんなに真っ白なのは初めて。
居眠りして起きてもまだ東京には着いてない。
途中、車内アナウンスで『お客様の中に、お医者様はおられませんか』を聞いて(ガチで言うんだ……)と思ったり。
大変だったけど、楽しかった旅の記憶のほんの一部。
私は今、猛烈に後悔している。
……完食できたけど、あの一口は食べるんじゃなかった……!
家族が残した肉団子。かなりお腹いっぱいだったけどもったいない精神が働いて頑張っちゃったあの一口。
それがトドメとなってお腹を壊すなんて!
美味しかったけど、美味しかったんだけど、もう二度と満腹状態では頑張らないでおこう……
私のお腹のためにも!
……まあ、いつかはこんなことも忘れてまた頑張っちゃってまた後悔するんだろうね……
空は曇天。もう少ししたら雨が降りそうだ。
まあ今は春休みだから別に雨が降っても何の支障もないんだけど、気分はどんよりする。
昼メシを食べて何もやることがない俺はうつ伏せになって適当にショート動画を流し見ていた。
「この間見た夢なんだけどさぁ」
急に何の脈絡もなくソファに寝転がってスマホを見ていた兄が俺の方を向いて声をかける。
「超でっかいビルの大広間っぽいところにさぁ、爆死した人の山があって」
「ちょ、ちょっと待って兄ちゃん」
まったく穏やかじゃない内容に待ったをかけたが兄はそれを無視して話を続ける。
「でも十数人くらいの子供たちは無事だったんだけど突然ば◯きんまんが現れてこう言うんだ。
『アンパ◯マンが来てるからあそこから助けてもらおう!』って壁に空いた穴を指差してさ」
「お、おぉ……?」
突然の幼児向けの敵役とヒーローの名前が出てきて困惑していると兄は少し暗い顔をして続きを話した。
「みんな飛び降りてキラキラ〜って星になって、残っていたば◯きんまんがこう言って飛び去ったんだ。
『アンパ◯マンなんていないのに……』って。
我ながら凄い夢だよねぇ」
……あまりにも酷い結末に言葉を失っていたが、とりあえずありのままの感想を伝えることにした。
「こっわ何その極悪なば◯きんまん。子供泣くよ?
ってか兄ちゃん、なんでそんな怖い夢見るの。精神状態大丈夫?」
「僕が怖い夢をよく見るのはお前もよく知ってると思うけどさぁ、原因がわかってたらこんな夢見ないよ。
で、悪い夢って誰かに話したらなんか良いらしいってネットに書いてあったからさぁ、これから見次第バンバン話すからね」
兄は怖い夢を月一回以上は見ると前に零していた。
……つまりここから月イチ以上で怖い夢の話を聞くことになるのか……?
「……いや、あのさ。まずは原因を突き止めるなり、ドリームキャッチャー買うなりしようぜ?」
「何個か買ったけど、あれ効果なかったよ?
それに先月お祓いもしてもらったところだし。
だから手詰まり。八方塞がり。というわけでこれからよろしくね〜」
兄はにこやかに笑い、そしてまたスマホに目を落とした。
……空は雨天。俺の心は雲り空。
bye bye…
日本語では「バイバイ」と言うのが一般的だが、英語圏では「bye」と一回だけいうのが普通らしい。
「bye bye」だと子供に向けている、または子供っぽいと思われるらしい。
ネットの知識をどこまで信じればいいのかわからないが、同じ言葉を二回重ねるだけで子供っぽいと思われる言葉になるのは面白い。
日本語にもあるだろうか。同じ言葉を重ねれば子供向けになる言葉。
パッと思いついたのは「缶(かん)」「缶缶(かんかん)」だが、これは大人も普通に使うしなぁ……とも思う。
しかし私が思いつけないだけで他にもあるのだろう。
缶缶のように方言とかで。